獅子の皮を被った子猫の逃走劇


 物心がついたときから、既にいらないものとして扱われてきた俺の人生。

 中学の頃には、優秀な家族に反抗して、ケンカばっかりしていた。

 だが、全部無意味だった。

 俺の姿がどんどん派手になっても。

 俺がどんな大きな怪我をしても。

 俺が……帰らなくなっても。

 誰も気にも留めない、気付きもしない。

 俺は透明な存在だった。


 龍ヶ崎に来て、No.2になったところでそれは変わらなかった。

 仲間はできたし、信頼できる奴も数人はいた。

 でも、俺を心配してくれる人は一人もいなかった。


 それなのに……今目の前のこいつはっ……

 『ああもう、大丈夫だっつってんだろ!』
 『っ!』

 不意にさらされた優しさに、どうすれば良いのか分からなかった。

 とりあえずは、その流れ落ちる綺麗な滴を止めてやりたくて。

 獅音が泣く姿をきれいだなと思う反面、よく分かんねえけど、胸の奥を掴まれたような痛みが走る。


 だから抱きしめた。

 俺は大丈夫だから泣き止め、と想いを込めて。

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