獅子の皮を被った子猫の逃走劇
 そして、その状態で駅に向かっている時。

 俺のすぐ隣をよく見知った匂いが通った。


 ――獅音?


 誰にも絶対言わねえけど、獅音の体臭は甘い。

 ただむせるような甘ったるい香水なんかと一緒じゃなくて、とにかく自然な甘さ。

 無意識にもっともっと、と寄ってしまうような感じの。


 愛おしい匂いにハッとして、振り向いてみたが、そこに獅音はいなかった。

 今すれ違ったのは、黒髪のロングの女だった。


 ……俺の気のせいか?

 その時は一瞬だったし、と深く考えずにスルーした。


 家に帰ってから考えてみると、あの女の雰囲気?のようなものがどことなく獅音に近かった気がしてきて。

 もしかしたら姉妹とかか?

 そう思った俺は、次あった時に聞こうと決め込んだ。


 まあ、聞いたらいないって言われたんだけどな。

 でもやっぱ似てる。

 はあ、


 今日も獅音を目で追うだけの1日になってしまった。




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