獅子の皮を被った子猫の逃走劇
すぐに先輩から目を逸らすも、どこを見ればいいか分からなくなって、階段の手すりに目を向けた。
「なんで、ですか。なんで離してくれないんですか?」
「なんでもクソもない。俺はただお前と話がしたくて、」
話⋯⋯?折田先輩が私に話なんてあるはずないよ。
そう捻くれている私は、斜め上からの圧をフル無視して目を合わせないように務める。
けれど、それは折田先輩の手によってあっけなく終わりを告げる。
「おい、こっちを見ろ」
その言葉と一緒に、顎をすくわれた。
近距離で目が合って、先輩の手が触れている部分から徐々に熱が広がっていくのが分かる。
何週間か距離を置いたところで、この恋心は消えてくれてなどいなかったのだと気付かされる。
胸の内には、どんどん好きが積もっていくばかりで。
ーー先輩はずるい。
潔く諦めようとした。
先輩への好きに丁寧に丁寧に蓋をして、鎖でぐるぐるに巻いて心の底に大事に閉まっておいた。
それなのに。
先輩のちょっとした言葉で、行動で、眼差しで、あっという間にそれらは浮かび上がって来てしまった。