獅子の皮を被った子猫の逃走劇


 話がしたいとか、離さないとか。

 私はちょろいからすぐに勘違いしちゃうの。


 先輩は彼女さんがいるし、私のことなんて一ミリも好きとか思ってない。
 それ以前に男だと思っているというのに。


 「先輩は……」
 「ん?」
 「……いいえ、やっぱ何でもないです!」
 「なんだよ、気になるだろ」
 「えー?秘密です」


 ここまで来ても、やっぱり小心者の私は何も言えない。

 さっきまで武士だの何だの調子乗ってたのにね。


 適当におどけてみせて、先輩の指の力が弱まったところですり抜けた。

 そのまま走り出す。

 後ろからは先輩の声で私の名前が呼ばれるけど振り返らなかった。

 中学で陸上部だった私に先輩は追いつけないでしょ?


 私には真実を打ち明ける勇気も、想いを伝える度胸もない。

 だからせめてーー
 仲のいい後輩ではいさせてください。


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