野いちご源氏物語 〇六 末摘花(すえつむはな)
 源氏(げんじ)(きみ)は結局、夜まで内裏(だいり)にいらっしゃった。左大臣(さだいじん)に連れられて大臣(てい)へお帰りになる。
 お屋敷には、頭中将(とうのちゅうじょう)をはじめとする左大臣のご子息たちが集まっていた。どなたも上皇(じょうこう)祝賀(しゅくが)会を楽しみにしていて、それぞれ(まい)の練習をなさっている。音楽の練習もにぎやかに行われた。いつもの音楽会とは違うめずらしい楽器をお弾きになる。
 それが祝賀会の直前まで続いたものだから、源氏の君は特に大切な恋人しかお訪ねになれない。常陸(ひたち)(みや)のお屋敷へ行かれる(ひま)などないまま、秋が暮れてしまった。

 いよいよ祝賀会が近づいて予行練習が行われるころ、命婦(みょうぶ)が源氏の君のところに参上した。
「姫君はいかがお過ごしだ」
 気まずそうにお尋ねになる。お気の毒なことをしたとは思っていらっしゃるらしい。命婦は姫君のご様子を伝えてから、
「こんなふうにあっさりお捨てになっては、お仕えする私どもまでつらくなってしまうではありませんか」
 とお(うら)みした。今にも泣き出しそうだった。
<姫君が気に入られることはないと分かっていたのだな。ちょっと気を持たせるだけのつもりでいたら、私が強引(ごういん)に姫君と関係を持ってしまった。こちらの立場も考えてくれと(うら)んでいるだろう>
 命婦の気持ちまで思いやっておやりになる。あの夜の姫君のご様子を思い出せば、姫君に対してもお胸が痛む。
「そなたも知っているだろう。今は祝賀会の準備でとにかく忙しい」
 ため息をつきながら言い訳なさった。
「それにあの姫君は切ない恋心というものをお分かりにならないようだからね。少し()らしめてさしあげようと思うのだよ」
 にっこりと微笑(ほほえ)まれる。そんな横暴(おうぼう)さまで青年らしい美しさに感じられて、怒っていた命婦も思わず見とれてしまった。
<このくらいのお年では、女性に対してわがままで思いやりがないのも当然かもしれない。さぞかしいろいろな人に恨まれておいででしょうね>
 命婦は苦笑するしかない。
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