野いちご源氏物語 〇六 末摘花(すえつむはな)
 年が明けてしばらくしたころ、源氏の君は常陸(ひたち)(みや)の屋敷をお訪ねになった。新しい女房(にょうぼう)が増えて、以前よりもふつうの屋敷らしくなっている。
 驚いたことに、姫君まで少し女らしさを身につけていらっしゃった。
<このままふつうの女性のようになってくださったら>
 源氏の君は期待なさる。
 翌朝は日が差しはじめたころにお起きになった。東の戸が開けてある。戸のむこうの渡り廊下は屋根が(こわ)れていて、朝日がさえぎられずに差しこんでくる。少し積もった雪の明かるさもあって、部屋の中がはっきりと見える。
 源氏の君がお着替えをなさると、姫君も縁側(えんがわ)近くまで出ておいでになった。見事な黒髪をこぼれさせながら、物にもたれかかっていらっしゃる。
<年が変わったのだ。お姿も生まれ変わったようになっているかもしれない>
 期待を(いだ)きつつ窓をお開けになる。先日のことで()りているから、完全に開けきらず(うす)明かり程度に調節なさった。
 それからご自分のお(ぐし)をお直しになる。古い鏡台(きょうだい)や、(かみ)を整える道具を女房がお出しした。亡き常陸の宮ご愛用の品々だった。
<さすがに洒落(しゃれ)たお道具だ>
 源氏の君はおもしろくご覧になる。

 姫君のご様子が女らしくおなりなのは、年末に源氏の君がお贈りになった着物をそのままお召しだから。源氏の君はそれに気づかず、(みょう)に立派な上着だなと不思議(ふしぎ)がっていらっしゃった。
「今年はもう少しお声をお聞かせください。年が新しくなったのだから、ご態度も新しくしていただけるとうれしい」
 源氏の君がお願いなさると、
「私は古めかしくて」
 とだけ、震える声でお返事が返ってきた。
「そう、その調子です。新しい年はよい年になりそうだ」
 華やかに笑って源氏の君はおっしゃる。

「あなたのお声が聞けるなんて、夢かと思いましたよ」
 (じょう)機嫌(きげん)でお帰りになるのを姫君は見送られた。源氏の君がふり返ってご覧になると、やはり赤い鼻先が目立つ。
<あれは困ったな>
 とお思いになった。
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