野いちご源氏物語 〇六 末摘花(すえつむはな)
 命婦(みょうぶ)の部屋を出た源氏(げんじ)(きみ)は、庭へお下りになった。
<ちょっとした物音でも聞けるかもしれない>
 姫君のいらっしゃる御殿(ごてん)の前へ行って、ぼろぼろの垣根(かきね)(かげ)にお入りになる。
 するとそこには別の男が立っていた。
<姫君に恋する者が他にもいたのか。私だと気づかれたら面倒(めんどう)だ>
 こっそり離れようとなさると、男はさっと近づいてきて言う。
「よくも私を置いていかれましたね。ご一緒に内裏(だいり)を出た後、あなたは思いもよらぬ方へ進んでいかれた。ご自宅でも妻の家でもない。あまりに気になるので、こんなところまでついてきてしまいましたよ」
 そのお声は頭中将(とうのちゅうじょう)だった。源氏の君は馬鹿馬鹿(ばかばか)しくなって苦笑いなさる。
「何をしておいでなのです。気づいても()(のが)してくださればよいのに、わざわざついていらっしゃるなんて」
 頭中将はまた一歩近づいて、
「こんなふうに私があなたについて回ったら、どうなさいますか」
 と意地悪をおっしゃった。
「まぁ、それは冗談(じょうだん)ですがね。女性の家をこっそりお訪ねになるときは、お供の(しつ)が大切ですよ。私をお連れになればよろしいのに。そんな格好までして、誰かに見つかったらどうなさるおつもりです」
 義兄(ぎけい)らしく源氏の君に忠告(ちゅうこく)なさる。しかしその頭中将も、恋人の家に行くつもりで粗末な身なりに変装(へんそう)していらっしゃった。
 奥様の兄君(あにぎみ)である頭中将に浮気がばれて、お説教までされてしまった源氏の君だけれど、負けた気はなさらない。頭中将の恋人だった夕顔(ゆうがお)(きみ)を、ひそかにご自分の恋人にしたという自信がおありになったのだもの。
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