野いちご源氏物語 〇六 末摘花(すえつむはな)
おふたりとも恋人を訪ねるご予定があったけれど、このまま別れるのはつまらないとお思いになる。
それで、源氏の君の乗り物に一緒にお乗りになって、横笛を合奏しながら姫君のお屋敷をご出発なさったわ。
向かう先は左大臣邸。
左大臣邸が近づくと合奏はおやめになった。
おふたりでこっそりお屋敷に入って、下流貴族の格好から、いつものご立派な格好にお着替えをなさる。
そうしていかにも、
「今帰りました。源氏の君もご一緒ですよ」
というように横笛の合奏を再開なさる。
左大臣様はあわててごあいさつにいらしゃったわ。
お手には、横笛とは少し違う、高音が美しい笛をお持ちになっている。
左大臣様お得意の楽器で、とても魅力的にお吹きになるの。
お琴は上手な女房にお弾かせになった。
琵琶が得意な女房もいるのだけれど、その人は離れたところで物に寄りかかってぼんやりしている。
実は源氏の君の恋人なの。
いえ、女房の立場だから、恋人といえるほどでもないわね。
ちょっとしたお遊びの相手だけれど、源氏の君が左大臣邸にいらっしゃったときにはかわいがっていただいている。
頭中将様も熱心に口説いておられたほどの美人よ。
源氏の君と女房の秘密の関係が続くうちに、左大臣様のご正妻、つまり源氏の君の奥様の母君に関係が知られてしまったの。
母君は、
「左大臣家に雇われている女房のくせに、大切な婿君に色目を使うなんて」
と怒っていらっしゃる。
女房は気まずくて恥ずかしくて、源氏の君の近くで琵琶を弾くことなどできない。
それで離れたところでぼんやりしているのね。
<いっそここで働くのをやめて、源氏の君がいらっしゃらないようなお屋敷で雇っていただこうかしら>
とも思うけれど、そうしたら完全に縁が切れてしまう。
それも寂しくて思い悩んでいたわ。
源氏の君と頭中将様は、常陸の宮様のお屋敷で聞いた、姫君の琴の音を思い出していらっしゃった。
頭中将様は、
<お屋敷は荒れてしまっていたが、なかなかよい雰囲気があった。どんな姫君がお暮らしなのだろう。美しくてかわいらしい人だとよいが。もしお会いできて、期待どおりの人だったら、世間から笑われるほど夢中になってしまうだろうな>
と、早くも期待に胸をふくらませていらっしゃる。
<源氏の君がこれほど入れ込んでいらっしゃるなら、私の出る幕はないだろうか。いやいや、まだ分からぬ>
と対抗心を燃やしておられたわ。
それで、源氏の君の乗り物に一緒にお乗りになって、横笛を合奏しながら姫君のお屋敷をご出発なさったわ。
向かう先は左大臣邸。
左大臣邸が近づくと合奏はおやめになった。
おふたりでこっそりお屋敷に入って、下流貴族の格好から、いつものご立派な格好にお着替えをなさる。
そうしていかにも、
「今帰りました。源氏の君もご一緒ですよ」
というように横笛の合奏を再開なさる。
左大臣様はあわててごあいさつにいらしゃったわ。
お手には、横笛とは少し違う、高音が美しい笛をお持ちになっている。
左大臣様お得意の楽器で、とても魅力的にお吹きになるの。
お琴は上手な女房にお弾かせになった。
琵琶が得意な女房もいるのだけれど、その人は離れたところで物に寄りかかってぼんやりしている。
実は源氏の君の恋人なの。
いえ、女房の立場だから、恋人といえるほどでもないわね。
ちょっとしたお遊びの相手だけれど、源氏の君が左大臣邸にいらっしゃったときにはかわいがっていただいている。
頭中将様も熱心に口説いておられたほどの美人よ。
源氏の君と女房の秘密の関係が続くうちに、左大臣様のご正妻、つまり源氏の君の奥様の母君に関係が知られてしまったの。
母君は、
「左大臣家に雇われている女房のくせに、大切な婿君に色目を使うなんて」
と怒っていらっしゃる。
女房は気まずくて恥ずかしくて、源氏の君の近くで琵琶を弾くことなどできない。
それで離れたところでぼんやりしているのね。
<いっそここで働くのをやめて、源氏の君がいらっしゃらないようなお屋敷で雇っていただこうかしら>
とも思うけれど、そうしたら完全に縁が切れてしまう。
それも寂しくて思い悩んでいたわ。
源氏の君と頭中将様は、常陸の宮様のお屋敷で聞いた、姫君の琴の音を思い出していらっしゃった。
頭中将様は、
<お屋敷は荒れてしまっていたが、なかなかよい雰囲気があった。どんな姫君がお暮らしなのだろう。美しくてかわいらしい人だとよいが。もしお会いできて、期待どおりの人だったら、世間から笑われるほど夢中になってしまうだろうな>
と、早くも期待に胸をふくらませていらっしゃる。
<源氏の君がこれほど入れ込んでいらっしゃるなら、私の出る幕はないだろうか。いやいや、まだ分からぬ>
と対抗心を燃やしておられたわ。