野いちご源氏物語 〇六 末摘花(すえつむはな)
二条(にじょう)(いん)にお戻りになった源氏(げんじ)(きみ)は、力なく横になってしまわれた。
<なかなか思いどおりの人には出会えないものだな。しかしご身分の高い姫君(ひめぎみ)だから、気に入らないとはいえ放っておくわけにもいかない>
と、うかつに手を出してしまわれたことを後悔なさる。
そこへ頭中将(とうのちゅうじょう)様がいらっしゃったの。
「朝寝坊ですか。昨夜はずいぶんとお楽しみだったのですね」
軽口(かるくち)をおっしゃるので、源氏の君は起き上がって、
「気楽な一人寝(ひとりね)で、うっかり眠りこけていただけですよ。内裏(だいり)からいらっしゃったのですか」
とお尋ねになる。
「ええ、内裏から左大臣(さだいじん)(てい)へ下がって父に会い、それからこちらに参りました。再来月には、上皇(じょうこう)様の五十歳の祝賀会がありますからね。そのご準備で忙しくしているのです。父の左大臣(さだいじん)に伝えることがあって下がっただけですので、これからまた内裏に戻ります」
とあわただしくおっしゃる。
「それならば一緒に内裏まで参ろう」
と源氏の君はおっしゃって、まずはおふたりでご朝食をおとりになったわ。

源氏の君の乗り物と頭中将様の乗り物がご出発なさる。
片方は(から)で、もう片方におふたりが同乗(どうじょう)していらっしゃるの。
本当に仲がおよろしいのね。
乗り物のなかで、また頭中将様がおからかいになる。
「まだ眠そうですね。あなたは隠し事が多くていらっしゃるから」
その日は上皇様の祝賀会について決めることがたくさんある日で、おふたりは一日中内裏で忙しくされていたわ。
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