【電子書籍化】初夜に「きみを愛すことはできない」と言われたので、こちらから押し倒してみました。 〜妖精姫は、獣人王子のつがいになりたい〜

気乗りのしない勉強会

 三日後、約束した時間にサラハは訪ねてきた。侍女のイライーダはお茶の準備だけして、すぐに退室する。

「その後、ルフィナ様の方はいかがです? 殿下に何か変化は見られましたか?」

 サラハの問いに、ルフィナは黙って首を振る。カミルは相変わらず寝室に仕事を持ち込んでいるし、ルフィナが眠ったあとにベッドに入っているようだ。朝も彼の方が先に目覚めるので、一緒に眠っているかどうかすら定かではない。

「カミル様はお忙しいから。最近は、同じ時間に休むこともできていないの」
「そうですね、殿下は随分お疲れのようでしたもの」

 ルフィナの言葉に共感を示すサラハ。きっと彼女は、カミルと会ったのだろう。閨の担当として、彼を慰めたのだろうか。

 サラハの艶やかな唇を見ると、その口でカミルに触れたのだろうかと考えてしまい、ルフィナは慌てて目を逸らした。

「本日は、少しずつ距離を縮めるのに効果的なマッサージの練習をいたしましょうか」

「マッサージ?」

 目を瞬くと、サラハは笑顔でうなずいて鞄から小さな瓶を取り出した。中に入っているのは、香油だろうか。

「執務にお疲れの殿下を、ルフィナ様が癒して差し上げるのです。本当なら背中や腰のマッサージが良いのですけれど、まずは手のマッサージから学んでまいりましょう」

 ほっそりとしたサラハの手がルフィナの手を握り、手のひらの上に香油を垂らしていく。微かにアルゥの甘い香りがした。

「こうして、少し力を入れて指先に向けてなぞるのです。殿下の手は大きいですから、香油はスプーン二杯ほどが適量かと」

「なるほど……。確かにこれは心地良いわね。カミル様も喜んでくださるかしら」
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