【電子書籍化】初夜に「きみを愛すことはできない」と言われたので、こちらから押し倒してみました。 〜妖精姫は、獣人王子のつがいになりたい〜
「もちろんです。殿下は、こうして爪の根元を強めに押さえるマッサージがお好きですから、ルフィナ様もぜひ試してみてくださいませ」

 ルフィナの手をマッサージしながら、サラハが微笑む。強すぎずちょうどいい力加減で気持ちがいいはずなのに、ルフィナの胸は落ち着かない。サラハは、カミルの手をこうしてマッサージしたことがあるのだ。でなければ、彼の好きな方法を知っているはずがない。香油に混ぜられているであろうアルゥの甘い香りが、何だか鼻について息が苦しくなってくる。
 ルフィナはそっと手を引いた。

「……ごめんなさい、もうそろそろいいかしら」

「えぇ。あまり難しい手技ではありませんから、あとはルフィナ様のお好みで。殿下の表情をよくご覧になって、気持ちがいいと感じてらっしゃる箇所を探ることが重要ですわ」

「そうね、努力するわ」

 タオルで香油を拭き取ったのに、手には甘い香りが染み込んでいる。最初に嗅いだ時は素敵な香りだと思ったのに、今では少し気分が悪くなるほどだ。

「良ければ今夜にでも、試してみてくださいませ」

 そう言って微笑むサラハの表情に邪気はなく、心からルフィナとカミルのことを思ってくれているようだ。
 何だか申し訳なくて、ルフィナは黙ってうなずくことしかできなかった。

 ◇

 夜、寝室にやってきたカミルは相変わらずたくさんの書類を抱えている。ルフィナに先に休むようにと告げて、彼はソファで難しい顔をしながら書類をめくり始めた。

「……あの、カミル様」

 意を決して声をかけると、カミルの耳がぴくりと動いた。次いで彼がゆっくりとこちらを見る。

「どうした」
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