【電子書籍化】初夜に「きみを愛すことはできない」と言われたので、こちらから押し倒してみました。 〜妖精姫は、獣人王子のつがいになりたい〜

当たって砕けても

 カミルが部屋を出て行く気配を察知して、ルフィナはゆっくりと毛布から顔を出した。
 拒絶するようなことを言ってしまったので、カミルの機嫌を損ねたかもしれない。これでますます、彼はサラハのもとに入り浸るだろう。

 だけど、ルフィナを心配するような素振りを見せながらアルゥの実を渡してくるなんて、平静ではいられなかった。
 それとなくサラハとの関係を匂わせて、ルフィナと距離を取るつもりなのだろうか。鉱石の輸入がある以上、アルデイルはホロウードとの関係を切ることができない。だから彼は、ルフィナの方から離れていくように仕向けているのかもしれない。

 カミルが持ち帰ったのか、部屋の中にはもうアルゥの実がなくてホッとする。あの甘い香りを嗅ぐだけで、ルフィナは猛烈な吐き気に襲われるようになってしまった。できることなら、もう二度と嗅ぎたくない。

 今頃カミルは、またサラハと一緒にいるのだろうか。
 そう考えるだけで、ずきりと胸が痛む。
 こんなことをされても、まだカミルのことが好きなのだなとルフィナは自嘲して苦い笑みを浮かべた。

 包み込むような優しさも、大きな手も身体も、まっすぐにルフィナを見つめる瞳も、全部大好きだった。
 自分がアルデイルを守っていくのだと覚悟を決めた横顔も、初夜で見せた少し可愛い仕草も、時折見せる艶めいた大人の男性を思わせる表情も、何もかもが愛しくてたまらなかった。
 明るい太陽のような人だと、ずっと思っていた。だけどその光は、リリベルの花のような雑草みたいなルフィナには遠すぎる。
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