bluestar 冷たい風が吹くこの星で

第1章 裏切りへのプレリュード

 西暦2138年、東アジアの一角で不吉な動きが広がり始めていた。 その頃には旧ロシアと旧中国が統一されて東アジア共和国を名乗っていた。
国際連盟から生まれ変わったはずの国際連合は東西内紛の煽りを受けて瓦解してしまって今は何の役にも立たない世界同盟がただただ目配りをするだけになっていた。
 それだからか、東アジア共和国は核兵器よりもさらに強烈な兵器の開発に勤しんでいる。
アセアンから脱皮した東南アジア平和会議はそれを注視していて全世界に発信し続けているが誰もその情報に耳を傾けない。 それどころか「我々の経済的武力的破壊によって荒野と化しているのだからそのようなことが出来るはずは無い。」と言い張っているのである。

 その情報に対し一人だけ反応した男が居た。 台湾国際部長 理等活である。
彼は東アジア共和国の危険な武装に付いて東京で全世界に向けて警報を強く打ち鳴らした。 しかし日本の首相でさえ「そんなことが有るものか。」と興味すら示さなかったという。
 そのうちに東アジア共和国の首席 王開元は言い切った。 「10年以内に西側超大国を殲滅するであろう。」と。
正規軍の関係者は初めて色を無くしたが大臣や外交関係者は鼻で笑うだけ。 翌日に発表された電子新聞各紙のトップ欄には王主席の言葉が掲載されていた。
 「おいおい、これはいったいどうしたというんだ?」 「さっぱり分からねえ。 王ってやつ頭でもおかしくなったんじゃねえのか?」
「頭がおかしくなっただけでこんなことを発表できるとは思えないんだけど。」 「それが出来るから未だに共和国なんだよ。」
 人々はこの記事を読んで何が起きているのか分からなかった。 ロシアが壊滅し中国が分解して以後、たまに通りで喧嘩する以外の紛争という紛争は抑えられてきたから平和になってしまったのである。
「東アジア共和国で何が起きてるって言うんだ?」 「分からない。 調べたくてもあらゆる渡航が禁止されていて入れないんだ。」
新聞記者もテレビ局のリポーターも簡単には入れないというのである。 何が起きているのだろう?
 それだけの異変はつい最近に始まったことではなかった。 前兆を調べてみると2055年には不穏な動きが確認されていたんだ。
中国、しかもゴビ砂漠の中央部に巨大な地下基地が建設されていた。 しかもそこに在るのは誘導型核ミサイルだ。
 「こんなのをいつの間に?」 ジャーナリストでさえ唸るしか無い真実に世界が震えた。
だがそこには日本やアメリカ、ヨーロッパの軍事的最高機密と思しき技術がふんだんに取り入れられていたのである。
 2047年、壊滅したロシアを吸収した中国は東アジアを威嚇しまくっていた。 少しでも意見を違えれば容赦なく弾道ミサイルを撃ち込んで激しい非難合戦を繰り広げていた。
その裏で日本やアメリカの政界中心部を侵食しあらゆる情報を巻き上げてもいた。 あの共和党でさえ中国には逆らえなくなっていたのだ。
 彼らは容赦なく法整備に口を出し、法外な利益を貪っていた。 引き換えに有識者と目される人たちを理由無く逮捕して処刑していった。
だがこのような現実を誰一人として報道する者は無い。 全ての報道権は中国首脳部に握られていたからだ。
それだけではなく国連でさえ中国の思うがままに動かされていたのである。 悲惨な時代だった。
 「アフリカ東部で飢餓が発生した。 何とかしなければ、、、。」 イギリスもアメリカも救済の手を伸ばそうとしたのだが国連はそれを拒否したのである。
「全会一致の決議だ。 邪魔はさせない。」 事務総長 シーガルペンデントはそう言い切って西側諸国を牽制した。
 「どういうことなんだ?」 各国の国連大使は緊急で会合を開いたが結論が出せない。 それもそのはず。
 ドイツ大使 ワッセルガーナードは中国の手先だったからだ。 「これではまずい。」
アメリカとイギリス フランスは個別に救援活動を始めた。 それをドイツとイタリア チェコは冷ややかな目で見詰めていた。

 その頃、日本でも表向きは救援活動に動こうとしているのだが、実態がなかなか見えてこない。 国民からも批判の声が上がり始めていた。
国会でも連日のように質疑が繰り返されている。 しかしそれも堂々巡りの域を出ないようだ。
 「毎日どれだけの人が飢えに苦しんでいると思うんですか? 首相であるあなたは何とも思わないんですか?」 「思わないことは無いんですがそこまでやるだけの予算が足りません。 今更国債を発行するわけにもいかないので、、、。」
 「こんだけ予算が余っているじゃないですか。 なぜこれを使わないんですか?」 「ですからこの金は国内で何かが起きた時のために、、、。」
「それはそれで個別に対応すればいいでしょう? アフリカの人たちを見殺しにする気ですか?」 「そうとは言っておりません。 可能な限りの手を尽くしておりますから納得いく解決策が見付かれば、、、。」
 「それならとっくの昔に見付かっているじゃないですか。 何を寝ぼけたこと言ってるんですか? あなたは首相でしょう? 飢餓支援を今ここで決定してください。」
のらりくらりと逃げ回る首相 吉原康太は魚のような顔で国会を後にした。
煮え切らない政府の対応に反対集会が全国で行われているが、政府は警察を動かして志望者を次々に逮捕していったのである。
 反対集会は一時的に勢いを失ったが志望者の逮捕を受けて暴力的な様相を見せ始めていた。
「このままでは国が壊れてしまう。 何とかしなければ、、、。」 かつてsnsで議論を繰り広げていたインフルエンサーたちは秘密裏に会合してクーデター計画を話し合うようになった。






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