今夜、上司と不倫します  不倫したら一億円もらえるって本当ですか!?
 怖いほどに鋭かった目は細められ、お腹を抱えてデスクにうつぶせるように笑っている。
 もしかして最初に睨まれたのは、笑いをこらえていたのだろうか。
 ギャップ萌えどころの騒ぎじゃない。ドン引きだ。

「このことを外部にもらしたら、あなたは首ですからね」
 昨日からそんな話題ばかりで亜都はげんなりした。
 結局、なにか一歩を間違えれば首になる綱渡りは続いているのだ。

「怖い噂を流して秘書になりたい人を減らして人員を厳選してきました。あなたにはこのあと、口外しないと言う誓約書を書いていただきます。破ったら破格の慰謝料を請求します」
「ええ……」
「言わなければいいだけのことです。簡単ですよ」
 しれっと言われて亜都はまたげんなりする。

 だけど、と御曹司の専務、怜也を見る。
 思ったより楽しそうな人で、そこだけはほっとした。



 亜都は必死に秘書としての仕事をした。彼を誘惑する余裕などまったくなくて、仕事だけで手一杯だ。
 怜也は亜都の顔を見るたびに吹き出し、なんだか複雑な気持ちになった。
 にらまれたり嫌われたりしたわけじゃないからいいんだ、と自分に言い聞かせて過ごす。

 割ってしまったカップはレプリカの安物——それでも御曹司が使うくらいだから高いのだろうけど――だと聞かされてホッとした。
 秘書になって一週間後、怜也にコーヒーを持っていったときだった。
 
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