今夜、上司と不倫します  不倫したら一億円もらえるって本当ですか!?
 音を気にしたのか、ぎろりと怜也が亜都を見た。
 ひっ!
 びくっと震えた直後、ソーサーからカップが滑り落ちた。
 がしゃん、と音がしてコーヒーと破片が飛び散る。

「す、すみません!」
 慌てて破片を拾おうとして、噂を思い出した。

 コーヒーをこぼしたら僻地へ左遷。
 こぼすどころか、カップを割ってしまった。しかもこれはアンティークの高級品だ。

 亜都はそのまま膝をついて、頭を床に着けた。
「申し訳ございません!」
 直後、部屋がシーンと静まり返る。

 どうしよう、絶対に怒ってる。
 そう思う亜都の頭の上から、くく、と笑うような声が降って来た。

「駄目だ、我慢できない!」
 叫ぶような声とともに、あはははは、と笑い声が響く。
 え、と思って顔を上げると、怜也がお腹を押さえて笑っていた。

「カップ割っただけで土下座って!」
 ひーひー、と苦しそうに息をしながら怜也は笑っている。
 なにが起きたのかわからず呆然とする亜都に、恭平が声をかける。

「琴峰さん、立ってください」
 亜都はおずおずと立ち上がる。
「専務は極度の笑い上戸です。それを隠すために普段はしかめっつらです」
 あまりのことに、亜都は目をぱちぱちと瞬かせた。
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