今夜、上司と不倫します  不倫したら一億円もらえるって本当ですか!?
「なにかあったのね」
「亜都には隠せないなあ」
 父は声に苦笑をにじませた。

「実は、工場をやめることにしたんだ」
「借金してまで直したのに!」

「直している間に取引先が別の工場に発注して、うちとは取引をやめると言われたんだ。これ以上借金を増やす前に辞めるよ」
「お父さん、工場だけが生きがいだったじゃない。従業員だって若くないんだし、再就職できないかもれしれないって、だから工場を再建するって」
「引き際も肝心だ。これは相談じゃなくて報告だから。今後は心配しなくて良いから。じゃあな」
 父は返事を待たずに切ってしまった。

 そんな、と亜都はぼうっと地面を見つめる。
 工場は家の隣だったから工員たちと親しくしていた。彼らは親戚のおじさんみたいに優しくて、亜都もなついていた。大学進学で地元を離れるときには餞別を送ってくれて、一緒に泣いたものだった。

 そのみんなの行き場がなくなってしまう。
 へなへなと崩れそうになる自分を叱咤して、なんとか木の陰に寄ってショックをやりすごそうとする。
 だが、どうにも動揺は去ってくれなくて、亜都はただ立ち尽くしていた。

「大丈夫ですか?」
 声をかけられ、亜都は顔を上げた。
 青白い顔をした和服の美しい女性が、黒い服の男を従えて立っていた。

「大丈夫です、すみません」
 亜都は慌てて歩き出そうとしたが。
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