今夜、上司と不倫します 不倫したら一億円もらえるって本当ですか!?
一階ロビーに降りると、いつもと様子が違って空気がピリッとしていた。
「やだ、雲上人がご降臨よ」
きゃぴっと声を上げた同僚の視線を追うと、クールなイケメンが秘書を従えて歩いていた。
黒髪に細身のスーツがしゃきっとしている。長身で手足が長くてまるでモデルだ。実際、若い頃にはカホウ化粧品のイメージキャラもしていたらしい。
「香宝怜也、社長の息子で三十三歳にして専務」
ほれぼれする同僚に、亜都は、でも、と言う。
「すごい怖い人らしいね」
「コーヒーを零しただけで僻地に飛ばされたとか、書類の日付を間違えてクビを切られたとか、ジョークを言ったら睨み殺されたとか、冷酷非道な噂はたくさんあるよ」
「こわっ! 私、事務で良かった」
ふたりで楽しくランチに行き、午後は御曹司など忘れて仕事に集中した。
平凡な日常が壊れたのは夕方のことだった。
定時に退社し、寒風に吹かれながら駅に向かっていたとき。
スマホが鳴って、亜都はバッグから取り出した。
父からだった。電話に出ると、父はなんだか気まずそうに話し始めた。
「亜都、元気にしてるか」
「元気だよ。どうしたの?」
「いや、別に……」
言葉を濁す様子に、亜都はこくりとつばを飲み込んだ。