あやめお嬢様はガンコ者
どれくらい経ったのだろう。
身体は疲れているのに、頭の中に今夜の出来事が蘇ってきた。
夢だと分かっているのに、男にギュッと身体を押さえつけられた感覚がまざまざと思い出されて、私はハッと目を覚ます。
見慣れた寝室の天井にホッとしつつ、額には汗がにじみ、肩で荒い息を繰り返していた。

「あやめさん？」

久瀬くんが呟く声が聞こえてきて、隣に目を移す。

「大丈夫ですか？」

上半身を起こして心配そうに尋ねる久瀬くんに、私はかろうじて笑いかけた。

「大丈夫です。起こしてしまってごめんなさい」
「いいえ。何かあったらいつでも起こしてくださいね」
「はい、ありがとう」

ふう、と息をついてから目をつむる。
だが頭はますます冴えてしまい、眠れそうになかった。
またしてもあの時のことが思い出されそうで、怖くなって目を開ける。
このまま起きていようかな、と思った時、隣から久瀬くんが腕を伸ばしてきた。

「久瀬くん？」

久瀬くんは両手で私を自分の胸に抱き寄せる。

「大丈夫だから、安心して眠って」

そう言ってポンポンと私の頭をなでてくれる。
思わず身体の力を抜くと、久瀬くんは更に私をギュッと抱きしめた。
久瀬くんの胸の鼓動が聞こえてきて、私は目を閉じて身を任せる。
温かさと心地良さ、そして守られている安心感を感じて、私は今度こそ深い眠りに落ちた。
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