あやめお嬢様はガンコ者
「久瀬くん、お風呂沸いたのでお先にどうぞ。バスローブ、よかったら使ってください。私には大きめだけど、久瀬くんには小さいかしら?ごめんなさい」
「いえ、ありがとうございます。それよりあやめさんが先に入ってください。あと、笑顔は禁止です」

淡々と言われて、私は首を傾げる。
そんなに笑ってたつもりはないのに。

「あやめさん、そのちょっと拗ねた顔で小首を傾げるのもダメです」
「えっ?じゃあ、どうすればいいの?」
「キョトンとしながら上目遣いもやめて」
「ええー?そんな、一体どうすれば……」
「あー!ウルウルもダメ!ほら、早くお風呂どうぞ」

久瀬くんに背中を押されて、私はバスルームに向かう。
シャワーで髪と身体を洗ってからバスタブに浸かると、ようやく人心地ついた。

色々あったな、今日は。
まだ気持ちがついていかない。
でも明日も恐らく考えることがたくさんあるはず。
久瀬くんは社長に何を話すつもりなのだろう?

考え始めるとのぼせそうで、私は早々にお風呂から上がった。

パジャマの上からカーディガンを羽織ると、久瀬くんと交代してバスルームに促す。
寝室のドレッサーで髪を乾かし、スキンケアを済ませると、キッチンでハーブティーを淹れた。
久瀬くんはハーブティーじゃない方がいいかな?と思い、ミルク多めのカフェインレスコーヒーにする。
ちょうどその時、久瀬くんがバスローブ姿でリビングに戻って来た。

「お風呂、ありがとうございました」
「いいえ。あ、やっぱりバスローブ、丈が短いわね」
「暑がりだから、これくらいでちょうどいいです」
「そう?それなら良かった。ソファでコーヒーでもどうぞ」
「ありがとうございます」

ソファに並んで座り、ハーブティーを飲んでいるうちに、私はまぶたが重くなってくる。

「あやめさん?そろそろ寝ましょうか」
「ええ、そうね」

歯磨きを済ませてからベッドに入り、「おやすみなさい」と久瀬くんに声をかけたあと、私はスーッと眠りに落ちて行った。
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