あやめお嬢様はガンコ者
「おはようございます!あやめさん」
「おはよう、由香里ちゃん」
「ん?なんだか元気ありませんね」
「え、そうかな。元気よ。あ、金曜日はありがとうね」
「こちらこそ。またデートしてくださいね!」

月曜日になり、父と一緒にハイヤーで出社した私は、どんよりとした気分だった。
おととい久瀬くんが帰ったあと、本当に引っ越し業者が私のマンションから全ての荷物を運んできた。
へそを曲げて自室に立てこもったけれど、さちさんに説得されて渋々食事の席に着く。
それ以外はずっと部屋にこもっていた。

なんとかして早く実家を出たい。
掃除も洗濯も料理も全て自分でやりたいし、気ままに出かけたい。
残業もしたいし、帰りに由香里ちゃんとデートだってしたい。
自由ほどありがたいものはない、とつくづく思い知らされた週末だった。

事件の方はというと。
昨日、犯人の勤める会社の社長さんが自らうちにお詫びに来てくれた。
犯人の男は、久瀬くんが記憶していた通りライバル会社のMRで、成績が伸び悩んでいたらしい。
だからといってこんな事をしていいはずがなく、即刻懲戒解雇処分にしたと社長さんは深々と頭を下げていた。

その後、父と私は一緒に警察に行って被害届を提出し、犯人の取り調べが始まった。
警察も、被害者が大企業の娘であることから、素早く動き出してくれたらしい。
これからについては、父と弁護士に一任している。
ただ今日は夕方から久瀬くんと一緒に警察署に行き、事情聴取と犯人の顔を確認することになっていた。
考えただけで身がすくむが、昨日久瀬くんと電話で話した時「必ずそばにいるから」と言ってくれて心強かった。

いつまでも弱気なままではいられない。
仕事だって大事な局面なのだ。
私は自分に言い聞かせて気合いを入れた。
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