あやめお嬢様はガンコ者
「あやめさん」
夕方になり、約束した時間に会社のエントランスに下りると、久瀬くんが笑顔で待っていた。
「久瀬くん!」
駆け寄った私は、思わず涙が込み上げそうになる。
優しい笑顔も、私の名を呼んでくれる声も、何もかもが懐かしく感じた。
涙をグッと堪えて見上げると、久瀬くんは心配そうな顔をする。
「あやめさん?どうかしました?」
「いいえ。あの、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ。あやめさん、必ずそばにいますから安心してください」
「はい」
二人でハイヤーで警察署に向かうと、私は運転手に「帰りは久瀬くんとタクシーを使うから」と言って社に戻らせた。
「行きましょうか」
「ええ」
胸の前でギュッと拳を握りしめると、久瀬くんが手を繋いでくれた。
頷き合って二人で入り口を入る。
久瀬くんが事情を説明し、書類なども全て書いてくれ、私がこれ以上不安を抱えないようにそばについていたいと申し出てくれた。
事件の詳細を話す時も犯人の顔を確認する時も、ずっと久瀬くんが手を握ってくれていたおかげで、私は何とか乗り超えられた。
「お疲れ様でした、あやめさん。大丈夫でしたか?」
警察署を出ると、久瀬くんが気遣うように声をかけてくれる。
「ありがとう、大丈夫です。これでひとまず終わったから、ホッとしました」
「そうですね、あとは社長にお任せしましょう。じゃあ、ご自宅までお送りします」
そう言われて私はピタリと足を止めた。
「あやめさん?」
「……りたく……ない」
「え?なんて?」
「帰りたくないです!」
は?と久瀬くんは呆れたように声を上げる。
「また駄々っ子ですか?あやめさん、俺より年上ですよね?」
「だって、帰りたくないものは帰りたくないんだもん」
「そんなこと言って。帰らないと叱られますよ?」
「叱られたっていいです!」
まったくもう……と、久瀬くんはため息をつく。
私は絶対に譲れないとばかりに仏頂面を決め込んでいた。
「分かりました。あやめさん、社長に電話してください」
「え?なんて?」
「俺が必ず無事に送り届けますから、夕食を外で食べてもいいですか?って」
「いいの?うん!行きます」
「いや、だから。社長に聞いてください」
「聞く必要なんてないわ。子どもじゃないんだから」
「どこがですか?立派な駄々っ子ですよ。電話しないなら行きません」
えっ、と途端に私は怯む。
「いやだ、行きたいです」
「それなら、ほら。早く電話してください」
私は渋々スマートフォンを取り出して、父に電話をかけた。
「あ、お父様?あやめです。夕食は食べて帰りますから。それでは」
わー、ちょっと!あやめさん!と、久瀬くんが横から手を伸ばしてスマートフォンを奪った。
「もしもし、社長。久瀬です。突然申し訳ありません。……はい、警察での用事は全て終わりました。それで、これからあやめさんを食事にお連れしてもよろしいでしょうか?帰りは私が責任を持って、あやめさんをお屋敷まで送り届けますので。……はい、ありがとうございます。それでは、失礼いたします」
久瀬くんが電話を終えると、私はわくわくと身を乗り出した。
「行ってもいいって?」
「はい」
「やったー!早く行きましょ、久瀬くん」
「やれやれ……」
小さく呟く久瀬くんの腕を取り、私は意気揚々とタクシーに手を挙げた。
夕方になり、約束した時間に会社のエントランスに下りると、久瀬くんが笑顔で待っていた。
「久瀬くん!」
駆け寄った私は、思わず涙が込み上げそうになる。
優しい笑顔も、私の名を呼んでくれる声も、何もかもが懐かしく感じた。
涙をグッと堪えて見上げると、久瀬くんは心配そうな顔をする。
「あやめさん?どうかしました?」
「いいえ。あの、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ。あやめさん、必ずそばにいますから安心してください」
「はい」
二人でハイヤーで警察署に向かうと、私は運転手に「帰りは久瀬くんとタクシーを使うから」と言って社に戻らせた。
「行きましょうか」
「ええ」
胸の前でギュッと拳を握りしめると、久瀬くんが手を繋いでくれた。
頷き合って二人で入り口を入る。
久瀬くんが事情を説明し、書類なども全て書いてくれ、私がこれ以上不安を抱えないようにそばについていたいと申し出てくれた。
事件の詳細を話す時も犯人の顔を確認する時も、ずっと久瀬くんが手を握ってくれていたおかげで、私は何とか乗り超えられた。
「お疲れ様でした、あやめさん。大丈夫でしたか?」
警察署を出ると、久瀬くんが気遣うように声をかけてくれる。
「ありがとう、大丈夫です。これでひとまず終わったから、ホッとしました」
「そうですね、あとは社長にお任せしましょう。じゃあ、ご自宅までお送りします」
そう言われて私はピタリと足を止めた。
「あやめさん?」
「……りたく……ない」
「え?なんて?」
「帰りたくないです!」
は?と久瀬くんは呆れたように声を上げる。
「また駄々っ子ですか?あやめさん、俺より年上ですよね?」
「だって、帰りたくないものは帰りたくないんだもん」
「そんなこと言って。帰らないと叱られますよ?」
「叱られたっていいです!」
まったくもう……と、久瀬くんはため息をつく。
私は絶対に譲れないとばかりに仏頂面を決め込んでいた。
「分かりました。あやめさん、社長に電話してください」
「え?なんて?」
「俺が必ず無事に送り届けますから、夕食を外で食べてもいいですか?って」
「いいの?うん!行きます」
「いや、だから。社長に聞いてください」
「聞く必要なんてないわ。子どもじゃないんだから」
「どこがですか?立派な駄々っ子ですよ。電話しないなら行きません」
えっ、と途端に私は怯む。
「いやだ、行きたいです」
「それなら、ほら。早く電話してください」
私は渋々スマートフォンを取り出して、父に電話をかけた。
「あ、お父様?あやめです。夕食は食べて帰りますから。それでは」
わー、ちょっと!あやめさん!と、久瀬くんが横から手を伸ばしてスマートフォンを奪った。
「もしもし、社長。久瀬です。突然申し訳ありません。……はい、警察での用事は全て終わりました。それで、これからあやめさんを食事にお連れしてもよろしいでしょうか?帰りは私が責任を持って、あやめさんをお屋敷まで送り届けますので。……はい、ありがとうございます。それでは、失礼いたします」
久瀬くんが電話を終えると、私はわくわくと身を乗り出した。
「行ってもいいって?」
「はい」
「やったー!早く行きましょ、久瀬くん」
「やれやれ……」
小さく呟く久瀬くんの腕を取り、私は意気揚々とタクシーに手を挙げた。