あやめお嬢様はガンコ者
(久瀬くんはいいアイデアが思い浮かんだかしら?昨日の今日ではきっと無理よね。いえ、分からないわ。だって久瀬くんは営業のトップだもの。どんなに厳しい状況でも色んな話術を駆使して、様々なアプローチからその場の雰囲気を良い方向へと変えられるはず。今回のお見合いだって、社長や部長に怪しまれない理由でさり気なくなかったことにする方法を既に……)
そこまで考えた時だった。
久瀬くんが難しい顔で口を開く。
「あの、あやめさん」
「はい、何でしょう?」
「俺の顔に何かついてますか?」
「え?あっ、ごめんなさい。つい考え事をしてしまって」
「いえ、いいんですけど。ロックオンされたので、ちょっと固まってしまいました」
「すみません、失礼しました。人様のお顔を見ながら考え事なんて……」
なんたる失態、と私は思わずうつむいた。
「どうぞお気になさらず。ほら、ゴーヤなしチャンプルが冷めてしまいますよ」
「はい、いただきます」
私は身を縮こめたまま食事に戻る。
向かいの席では、由香里ちゃんが楽しそうに原口くんと話していた。
「え、由香里ちゃん、彼氏と別れちゃったの?」
「そうなんですよ。先月フラれちゃったんです」
「そっか。俺の同期で由香里ちゃんのこと狙ってるやついるけど、このこと伝えてもいいかな?」
「ええ!?なんか、そんなふうに聞かれると困ります。風の便りってことにしてください」
「ははは!分かった」
風の便りか、なんだかメルヘンで由香里ちゃんに似合ってるな、と私は思わず箸を持つ手を止める。
そしてふと思い立った。
(お見合いの話も、風の便りで破談になったと知らせられないかしら。社長と部長の耳にふわっとこう『あの二人どうやら上手くいかなかったみたいですよ。落ち込んでいるので詮索はお控えください』って)
久瀬くんに提案してみようかと、顔を上げて隣を見る。
(でも待って。風の便りってどうやって流すの?そもそもこのお見合いって誰にも知られてないわよね?風に乗せられないじゃない)
やっぱりだめか、と諦めた時、じっと視線を合わせていた久瀬くんが小さく呟いた。
「あやめさん、食べて」
「あ、はい!」
またやってしまったと、私は慌ててうつむく。
「じゃあ久瀬、俺達はそろそろ戻ろうか」
「はい」
既に食べ終わっていた原口くんが、久瀬くんに声をかけて立ち上がった。
「それじゃあ、由香里ちゃんとあやめさんはどうぞごゆっくり」
「はーい」
由香里ちゃんが笑顔で手を振り、私も微笑んで原口くんを見送っていると、トレイを手にした久瀬くんが立ち上がりながら私の耳元でささやいた。
「あとで連絡します」
カチーンと私は完全に動きを止める。
「じゃあな、東」
「うん。またね、久瀬くん」
由香里ちゃんと言葉を交わして去って行く久瀬くんの後ろ姿を、私は呆然と見つめていた。
そこまで考えた時だった。
久瀬くんが難しい顔で口を開く。
「あの、あやめさん」
「はい、何でしょう?」
「俺の顔に何かついてますか?」
「え?あっ、ごめんなさい。つい考え事をしてしまって」
「いえ、いいんですけど。ロックオンされたので、ちょっと固まってしまいました」
「すみません、失礼しました。人様のお顔を見ながら考え事なんて……」
なんたる失態、と私は思わずうつむいた。
「どうぞお気になさらず。ほら、ゴーヤなしチャンプルが冷めてしまいますよ」
「はい、いただきます」
私は身を縮こめたまま食事に戻る。
向かいの席では、由香里ちゃんが楽しそうに原口くんと話していた。
「え、由香里ちゃん、彼氏と別れちゃったの?」
「そうなんですよ。先月フラれちゃったんです」
「そっか。俺の同期で由香里ちゃんのこと狙ってるやついるけど、このこと伝えてもいいかな?」
「ええ!?なんか、そんなふうに聞かれると困ります。風の便りってことにしてください」
「ははは!分かった」
風の便りか、なんだかメルヘンで由香里ちゃんに似合ってるな、と私は思わず箸を持つ手を止める。
そしてふと思い立った。
(お見合いの話も、風の便りで破談になったと知らせられないかしら。社長と部長の耳にふわっとこう『あの二人どうやら上手くいかなかったみたいですよ。落ち込んでいるので詮索はお控えください』って)
久瀬くんに提案してみようかと、顔を上げて隣を見る。
(でも待って。風の便りってどうやって流すの?そもそもこのお見合いって誰にも知られてないわよね?風に乗せられないじゃない)
やっぱりだめか、と諦めた時、じっと視線を合わせていた久瀬くんが小さく呟いた。
「あやめさん、食べて」
「あ、はい!」
またやってしまったと、私は慌ててうつむく。
「じゃあ久瀬、俺達はそろそろ戻ろうか」
「はい」
既に食べ終わっていた原口くんが、久瀬くんに声をかけて立ち上がった。
「それじゃあ、由香里ちゃんとあやめさんはどうぞごゆっくり」
「はーい」
由香里ちゃんが笑顔で手を振り、私も微笑んで原口くんを見送っていると、トレイを手にした久瀬くんが立ち上がりながら私の耳元でささやいた。
「あとで連絡します」
カチーンと私は完全に動きを止める。
「じゃあな、東」
「うん。またね、久瀬くん」
由香里ちゃんと言葉を交わして去って行く久瀬くんの後ろ姿を、私は呆然と見つめていた。