(二)この世界ごと愛したい
「その人は長い間ずっと閉ざされた場所にいて、会う事も話す事も叶わなかった。」
「…?」
「ようやく出て来たかと思えばかなり嫌われてた。」
「……冗談?」
アキトは恐る恐る聞く。
知る限りではシオン将軍は冗談を言うタイプではないと思います。
「…それでも会えずに過ごした頃に比べれば幾らかマシか。」
「……マジ?」
「さっきトキが言ってたろ。アキトのために俺との待ち合わせの場所をお前の城からずらしたって。それに彼女がお前の城にいることをトキは敢えて俺に黙ってた。」
「だって…お前、いつから…。」
アキトの記憶上。
私が戦場に立つ前から一人の女性を想っていたことを知っているアキト。
だから違うと、確信に近いものがあった。
「…出会った時はまだ幼くて。よく泣いてよく笑う。そんな子だったけど。」
「ろ、ロリコンだったのかお前!?」
「…今はもう守ってやらなくても大丈夫なはずなのに。彼女の運命はどうしてこうも過酷なんだろうな。」
「いや、マジなの?だとしたら帰れ?」
シオン将軍は天を仰ぐ。
「…戦の神は本当にいる。」
「はあ?」
「その神が彼女を戦の道に引き込もうと動くから。どうしてもまだ守らなきゃいけない。ハルもそれを知ってるはずなんだが。」
「何言ってんだお前?」
戦神として名を轟かせた私。
そんな私を神そのものとしてではなく、神に愛された者として捉えるハルとシオン将軍。
「…囚われた彼女を解き放ったのは神の力かもしれない。」
シオン将軍の記憶の中にいる、囚われの私。
私はその昔、シオン将軍と戦場ではない場所で出会っていたことにまだ気付いていない。