(二)この世界ごと愛したい
城から脱走を計った後か。
言いつけを破った後か。
シオン将軍があの頃の私の部屋を見てしまったんだとしたら。
「…可哀想だと思ったんだろうね。」
「俺の知ってるシオンは人に同情するタイプじゃないよ。それでもリンを助けたいと思ったのは、単にリンが可愛かったからじゃない?」
「可愛くはないと思うし。可愛いと思う感情こそ持ってないタイプじゃない?」
「少なくともリンが今見てるシオンは、俺も見たことないシオンだよ。」
トキが見たことない?弟なのに?
「例の戦で鬼人が倒れた後にも、俺は見たことないシオンを見たことがあった。」
「え?」
「冷静さを欠くほど戦に明け暮れて。いつ会っても傷だらけで。アレンデールの窮地にしては、東側からの進軍少なかったんじゃない?」
「…それは確かに、そうだけど。」
パパも不思議そうにしていた。
もっと侵攻されてもおかしくない状況だったにも関わらず、確かに少なかったと思う。
「今のシオンを見て気付いたけど、あれはアレンデールへ動き出そうとする国を手当たり次第シオンが潰していったからだよ。」
「な、んで…そんなこと…。」
「本来なら自分がアレンデールに進軍してほしい物を手に入れていい場面で。略奪じゃなくて守ることを選んだ。どうしてだろうね?」
「どうして、って。」
私だって知らない。
私が教えてほしい。
昔私の部屋で出会った時も。
そして私が戦場に立つようになり敵として再会した時も。
いずれもそこまでシオン将軍に想ってもらえるほどのことをした記憶は、私にはない。
「リンを略奪したのが、セザールじゃなくてエゼルタだったら。それ即ちリンを救うことじゃないってシオンは分かってたんだよ。」
「…でもハルを…討とうとしてた。」
「そこは良く分からないけど、もしかしたらリンが忘れてる記憶の中でシオンに何か言ったんじゃない?」
「…そう、なのかな。トキの話が本当なら私めちゃくちゃ最低じゃない?私シオン将軍にそこそこ酷いことばっかり言っちゃったよ?」
もうここまで来たら、恩人といっても過言ではないのではないか?
シオン将軍がますます分からない。
「さっき面倒だからって言わなかったけど。鬼人に進言しようとしてる戦だって、たぶんリンのためだよ。」
「え!?」
まだ今も尚、戦おうとしてるの?
それも、私のために?