(二)この世界ごと愛したい
私の職場が飲食店だと聞いたレンは、何やら難しい顔で考え込んでいる。
「…行きたい。」
「え?」
「そのお店行きたい。」
「…ダメ。」
来てどうするんだ。
酒場開店時は私は基本お酒を奢ってもらってダラダラ飲みながら、皆さんの楽しい話を聞くだけ。
あとはカイの護衛と、私の出現情報の既成事実でカイの懐を潤わせるだけ。
「リンが働いてるところ見たい。」
「…見たって面白くないよ。私基本お酒飲んでるだけだし。」
「え?」
レンは予想外だったようで。
口を開けてポカンとしているかと思えば、すぐに怒りの色を醸し出す。
「ダメダメ。すぐ辞めた方がいい。」
「え、辞めないよ?」
「夜の店ってことだよね?」
「夜…そうだね。お店が開くのは夜だね。」
頭からダメだと言うレン。
「心配してるんだよ。お酒入って変なお客さんに絡まれたらどうするの。」
「相手も酔っ払いなら私は泥酔してても返り討ちに出来るし。それにちゃんと雇い主が助けてくれるよ。」
「…やっぱり一度行かないと安心出来ない。」
粘着質な上、心配性。
これだけ会いにも来なかった私は、心配掛けるだけ掛けたわけだし。その気持ちをこれ以上無下にするのも…いかがなものか。
「見たらレンは安心するの?」
「え?」
「…今度は何に驚いてるの?」
「いや。俺が心配しようがリンは別に気にしないんだろうから軽く躱されるんだろうなって…思ってたから。」
躱される気だったのか。
それにしては簡単には納得はしてくれなさそうなのに。
「もうあんまり心配させたくないし、不安にもさせたくない。だからそれでレンが納得出来るならいいよ。」
「…リン、変わったね。」
「え、そう?」
「感情論は苦手そうだったじゃん。面倒になってすぐ逃げようとしてたし。」
手厳しいこと言いますね。
確かに根拠がないものは今でも苦手だ。
でも、根拠がなくても人は人に真摯に向き合って。届きもしない想いを馳せて。それでも直向きにその気持ちを大事にして生きている。
そんな感情に触れる機会が多かった。
「今も得意じゃないけど、せめて私に真剣に向き合ってくれる人くらいには、私も逃げずに向き合いたいって…最近思い始めた、かな。」
「…そっか。」