(二)この世界ごと愛したい
私の言葉に、ハルがピタリと固まる。
固まって静かになったかと思えば、私の肩に両手を置いて真剣に言う。
「嘘だな。そんなこと有り得ねえ。なあ?」
「いや、割とほんと。」
「俺が何した!?」
「あの進軍何。」
馬鹿みたいに人に心配をかけた進軍を、私はまだまだ怒っていた。
「進軍…あ。」
「何であんな意味わかんないことしたの。」
「…あの城は…」
「開戦前からあれだけ無茶して、帰ったらみんなにちゃんと謝らなきゃだめだよ。」
「謝らねえ。城攻めに貢献した奴には大将首よりデカい褒美をやるって言ってある。」
また訳のわからんご褒美制度を設けたな。
まともに軍略を練る頭を持ち合わせないハルは、いつもその感覚感情で動くから。いつも周りに迷惑をかける。
「あの城は、どこぞの大名だか貴族だかの城だ。霧が深い場所に俺は誘い込まれたんだ。つまり罠に嵌められたんだ。」
「それが嫌だったの?」
「…そこにやたら木が生えてた。初めは邪魔で切り倒そうと思ったんだ。」
「やっぱ嫌だったんだ。」
でも、だからと言ってハルが城に拘るとは思えないけど。
「喜べリン。お前のために落とした城だ。」
そう。
ハルを突き動かすものは。
「前城主の趣向だったらしいんだがな。」
その原動力は、いつだって私。
「千本の桜の下で、花見をしよう。」
そんな馬鹿げた理由で、散った兵もいるだろう。
そんな意味不明な目的に、憤る兵もいただろう。
「好きだろ、桜。」
「…そんなこと…言ったことない。」
桜が好きだなんて、私は言った覚えはない。
そして、実はそんなに好きでもない。
「はあ?だってお前…」
「桜見たら、ハルに会いたくなって苦しいから好きじゃない。」
「クソ、間違えた。お前の誕生日プレゼントにしようと思ったんだ。てっきり泣いて喜ぶもんだと…」
「好きじゃないけど、嫌いじゃない。」
誕生日プレゼントを準備するために、大将戦前に全戦力使う将軍なんて馬鹿だ。
敵将とぶつかる前に勝つことを見越して、先に領地を奪いに行く将軍なんて馬鹿だ。
「ハルと一緒に見るから好きなの…っ。」
そんな馬鹿な将軍が、涙が溢れるほど好きな私は。
たぶん大馬鹿だ。