苦くも柔い恋
あんまり楽しそうじゃないしこの話題はやめようとおひたしに手を伸ばしていると、不意に千晃が言葉を発した。
「どうでもよかったんだよ」
「え?」
和奏の箸を運ぶ手が止まり、千晃を見つめた。
「和奏以外どうでも良いから、どうにかなりたいなんて思ったことねえ」
考えただけで気持ち悪い、と千晃は続けた。
「そ、そんなに…?」
嬉しさを感じながらも、どこか大袈裟に言っているような気もした。
そこまで千晃に好かれる理由が思いつかなかった。
若干の疑いの気持ちを込めてそう聞けば、千晃の切れ長の瞳がこちらを真っ直ぐに射抜く。
「じゃあお前は、どこから湧いたかも知れねえその辺の羽虫と付き合えって言われて付き合えるのかよ」
「それは…嫌だよ」
「そういうことだ」
そういうことってなんだ。
千晃の性格に難があるとは前々から思っていたけれど、まさか好意を寄せてくれる人達を羽虫扱いするなんてどうかしてるとしか思えない。
そしてそれに嫌な気がしていない、自分自身も。