苦くも柔い恋
きちんと恋人と呼べるような関係に戻ってから初めて迎える土曜日は、それは落ち着かなかった。
授業中は生徒の目もあり気持ちの切り替えは出来ていたけれど、事務作業やミーティングはいまいち雑念が混ざって集中できなかった。
帰宅の目処が立ち、建物を出て一番近くにある居酒屋へ入った。
そこで千晃と待ち合わせをしていたからだ。
外で待たせるのは目立ちすぎるからと和奏からお願いした。
「千晃、お待たせ」
大衆の中でも一際目立つ千晃に声を掛ければ、それまで"無"だった表情が一変する。
「和奏」
まさしくそれは愛しいものを呼ぶ声だった。
場所が場所なら腰から砕け落ちそうな色気を放ち、視線は全て自分へと注がれる。
その事実に照れつつも、柔らかな笑顔を返した。