苦くも柔い恋
「橋本」
不意に名前を呼ばれ声を上げる。
そこには心配そうに顔を覗き込む香坂がいた。
「お前顔色酷いぞ。今日はもう帰れ」
「いえ、でも…」
「そんな顔で生徒の前に立つつもりか。教師としての自覚あるのか」
厳しい言葉に言葉を失う。
最悪だ。私情で仕事に穴を開けるなんてあってはいけない事なのに。
「授業は他の先生に頼むから帰って休め」
「…本当に、すみません」
頭を深く下げ、自責の念に囚われる。
香坂は呆れたようにため息をつくと、一度だけ肩を叩いて他の講師の元へ歩み寄った。
代わりに請け負ってくれることになった先生に頭を下げ、帰路につく。
明るいうちに帰るなんて不思議な感覚だと罪悪感に苛まれながら近道の公園を抜け、自宅へと戻った。
ベッドに倒れ込むように体を落とせば、もう二度と起き上がれないんじゃないかと思うくらい体が重くなった。
睡眠不足が続いていたせいか、そのまま意識を失うように眠りについた。