苦くも柔い恋



そんな頃、和奏は以前に千晃と口約束をした道後に訪れていた。


桜と泊まった温泉旅館とは別の宿を予約し、千晃の希望通り部屋に風呂が付いているものを選んだ。

カラクリ時計も見たし、今回は坊っちゃん列車というものにも乗ってみた。

タルトのお店にも再度訪れた。
千晃はまだその響きに慣れないようだったけれど、以前お土産で渡した時に食べて味は気に入ったらしく、季節限定のものと抹茶を頼んでいた。


「また和奏の点てた抹茶飲んでみてえ」


店から出されたものを飲みながら千晃がそんな事を言うので、にんまりと笑ってみせた。


「抹茶に美味しいも不味いもないんじゃなかったっけ?」

「擦るなよ、意地悪いぞ」

「ごめん。だって困ってる千晃が可愛いんだもん」


嬉しくねーわ、そう言いながらタルトを頬張る千晃を眺める。


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