苦くも柔い恋



「……」


服…この着物の事だろうか。

確かにさすが被服部と言いたくなるくらいセンスの良いデザインだと思う。

初めて袖を通した時は可愛さでテンションが上がったほどだ。

千晃はこういうのが好きなのだろうか。

それとも、或いは…


「…いや、無い。絶対ない」


この格好をしている姿が良いだなんて、絶対そんなこと思うわけが無い。

だってそんな表情でも甘い雰囲気でも無かったし。

このドキドキと煩い心臓の音も、勝手に勘違いして舞い上がっているだけだ。


そうした千晃の予想外の行動のせいで、切り出そうとした別れ話も有耶無耶になってしまった。

昼を食べていなかった事を知り、わざわざ食べ物を買って持ってきてくれた事にまた微かな期待を抱いてしまったとも言える。


結局文化祭が終わった後も、和奏から別れを切り出す事はしなかった。



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