苦くも柔い恋



好きになったきっかけはなんだったか、思い出だけは沢山ある。

努力家なところだとか、器用に見えて実は不器用なところだとか…あとは、意外と繊細で泣き虫なところとか。


中学1年の時、入部して数ヶ月にも関わらずスタメンに選ばれた千晃はその誤解を与えやすい言動も今より拍車がかかっていたのでなるべくして先輩に目をつけられ、不幸なことにそれが気性に問題のある先輩だった事も重なりハプニングを装って怪我をさせられた。

気の強い千晃は泣き寝入りはせず、完治と共に翌シーズンには再び選抜メンバーに返り咲き2年生でエースの座を勝ち取った。


けれど怪我で部活にまともに参加できない間、千晃は隠れて練習をしていた。

当時はまだ今ほど千晃との仲も拗れておらず、偶々部活の朝練で家を早く出た和奏がそれを見かけて以降、時折差し入れをしていた。

怪我をしていてもできるトレーニングを調べて伝えてみたり、解けた包帯を巻き直してみたり。


今思い返しても相当甲斐甲斐しかったと思う。


けれど本来出れるはずだった試合があった日、千晃は人知れず練習場で涙を流していた。

やめとけば良いのに放っておけず声をかけてしまい、悪態を突かれながらも側に寄り添った。


最初で最後の忘れられない思い出だ。


きっとあれが、恋というものを自覚する最初の出来事だったのだと思う。




< 64 / 267 >

この作品をシェア

pagetop