苦くも柔い恋
「良かった…」
聞き間違いかと思うその言葉に訳が分からず押し返すのを忘れた。
「いつまで経っても帰ってこねえから、何かあったのかと…」
「……」
目の前の千晃の言動が信じられず硬直する。
見れば千晃は息が上がっており肩が上下に動き、首筋には大量の汗が流れていた。
それだけで彼が外を走り回っていたであろうことが伺える。
「…走ったの?」
「前に聞いたお前の職場行った。なのにいつもの時間より早く出たっつーし…帰り道でなんかに巻き込まれてたんじゃねえかって」
「ちょっと待って職場に行ったの!?」
「たりめーだろ夜だぞ。女一人の夜道なんて悪い想像しか浮かばねえだろうが」
「…それは、」
確かに千晃の言葉は的を射ている。
けれど分からないのは、どうして彼がそんな事をするのかだ。
どうしていいか分からず固まっていると、ふと千晃の体が離れた。
「酒の匂い…?」