苦くも柔い恋
顔を見合わせて対面すると、眉の寄った目元と視線がかち合った。
「…飲み会に行ってたんだよ」
なんでこっちが気まずさを感じなければならないのか。
そう思うと酷く不快だったが、千晃のそれは和奏のそれを遥かに上回っているようだった。
「それ、男も居たのか」
「いるよ。元々ゼミ仲間の集まりだからね」
いい加減離してと体を押すも、鍛えられた千晃の身体は微動だにしない。
「口説かれてねえだろうな」
「はあ?そんな奇特な人いないよ」
美琴じゃあるまいし、と言いかけたところで千晃が盛大に舌打ちをした。
「っ、ふざけんな!少なくとも俺は…」
突然喚きだし、言葉尻を濁す千晃に怪訝な顔を向ける。
「…なに?」
短くそう聞けば、千晃は忌々しそうに顔を歪めた。
「…連絡先教えろ」
「なんで。やだよ」
「別に減るもんじゃねえだろ」
「気力が減る。それにどうせ私達連絡なんて取らないじゃない」