苦くも柔い恋
他意は無く、思った事を口にした。
「君は連絡不精だし私からも送らない。意味ないじゃん」
今の生活圏内にひとつでも爪痕を残したくない一心だった。
それほどまでに和奏の意思は固く、譲るつもりは微塵にも無かった。
それを見てどうにもならないと思ったのだろう、千晃は静かに腕を掴んでいた手を離した。
「…分かった、ひとまず諦める。だから今夜はここに泊めさせろ」
「初めからそのつもりだったくせに…」
嫌味を放つも千晃は聞こえないふりを貫いて我が物顔で奥へと進んでいくのでため息しか出なかった。
ほぼ無意識で着過ぎてよれよれに伸びてしまった部屋着の襟元を直した時、不意に先程抱き締められた感覚を思い出してしまった。
「…っ」
すぐに頭を振ってそれを振り払い、思い出して籠った熱を逃そうと壁に頭を打ちつけた。
中途半端に目が覚めてしまったので、その日は交代で風呂にだけ入って眠った。
翌日、いつもよりかなり遅い時間に起きた時には、千晃は家を出た後だった。