苦くも柔い恋
それからややあって世間の学生達が夏休みの時期に入り、和奏の勤める塾も夏期講習が始まった。
それに応じて授業の時間が増え、和奏も朝の時間からいくつか請け負っていた。
その日もいつもの時間に出勤して、夜の通常授業まで終えてミーティングを終えた頃には胃が空腹のあまり悲鳴を上げていた。
さっさと作成したカリキュラムを提出して何か買って帰ろうと香坂へ手渡すと、彼は口の端を上げながら行ってきた。
「橋本って彼氏いたんだな」
その言葉に先日の事を思い出し、対応したのは香坂だったのかと思いながら和奏は咄嗟に眉を垂らした。
「いませんよ」
「そうなのか?見知らぬ男が突然橋本はまだ居るかなんて聞くから、誰だか聞いたらお前の彼氏だって言ってたぞ」
「…そうなんですか」
途端に曇った和奏の表情を見て香坂を纏う雰囲気が張り詰めた。
「まさか変な男なのか?付き纏われてるとか…」
「あ、そういうのではないんです。彼氏というか元彼というか…とにかく説明が難しくて」
言いながら本当におかしな関係だと頭を過ぎる。