苦くも柔い恋
「なん…で…」
カンッと高い音を立てて鍵が手から滑り落ちた。
今すぐに逃げたいのに全身が震えて思うように動けない。
「やっと見つけた」
千晃の冷え切った声にヒュッと喉が鳴り、次の瞬間には後ろに向かってかけ出していた。
けれど相手は引退したとはいえ元バスケ部キャプテン、足の速さでかなうはずがなくあっという間に腕を掴まれた。
「やだ!離して!」
「ちょ、落ち着け!」
「何しに来たの、どうしてここが分かったの!」
パニックになりながら叫ぶも、時間が遅い為人通りは少なく助けを求める先もない。
涙ながらに腕を振り払い、その場にしゃがみ込んだ。
「も…やだぁ…っ」
あんな辛い思い、二度としたくない。
だからこうして逃げて来たのに、どうして此処にいるの。