苦くも柔い恋
「…話がしたかったんだよ」
「…っ、私は、したくない」
「頼む、和奏」
「……」
——ああ、どうして。
泣きたいのはこっちなのに、どうして君がそんな泣きそうな顔で見てくるの。
千晃は目線を合わすようにしゃがみこみ、先程落としてしまった自宅の鍵を手渡してきた。
「少しでいい」
受け取ってしまえばきっと話をせざる得なくなる。
けれどこれが無ければ家に入れない。
無言の攻防戦の末、結局折れたのは和奏の方だった。
差し出された鍵を受け取り、静かに肩を落とした。