冷徹ドクターは初恋相手を離さない
「またあんたか」
「直哉さん……!」
 直哉さんは裕太の手首を強く握ると軽くひねり、力が抜けた隙に私を一歩退かせてくれた。
「いってぇな! またお前かよ」
「ああそうだ。悪いか?」
「悪いだろうが! 用があるのはあんたじゃなくて、詩織なの。外野は引っ込んでろ」
 完全に本性が現れている。私と付き合っていた頃はこんな怒りやすい人ではなかったのに。
 それに、今こうして私と復縁を迫っているけれど、私のことを愛しているからではないなんてことは、この裕太の振る舞いを見ていれば明白なことだ。
「外野? ふっ、何を言っているんだ」
 直哉さんは裕太を冷たい目で見ながらそう言う。
「なんだよ……」
「外野なのはそっちだろう。俺は詩織の彼氏だからな」
「は? どういうことだよ詩織」
「そのままの意味だよ。私、この人と……直哉さんとお付き合いしているの」
 私は直哉さんの背中から恐る恐る絞り出すような声で伝える。自分の口で、直哉さんと付き合っているのだと。
 すると裕太は怒っていた表情を一気に失い、笑い始めた。
「はははっ、結局おまえも一緒じゃん! 寂しいからって浮気してたんだ! 被害者面すんな! この浮気女!」
 裕太は負け惜しみを言いながら、私に対して言いたい放題の侮辱をする。
 あまりの衝撃に私は言葉が出ない。
「何とか言えよ、なぁ」
 こんなひどいことを言う人だったとは思わなかった。私は『違う』と反論しようとしても、声が出ない。
 涙が出てしまいそうになるのを堪えていると、直哉さんが大きな溜め息をついた。
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