冷徹ドクターは初恋相手を離さない
 私はトイレの個室に入って、深呼吸をする。
 涙を流さないように呼吸を整えながら用を済ませ、メイク崩れがないか確認してトイレから出ると、すぐ傍の壁に寄りかかっていた直哉さんがいた。
「各店舗の美味しそうなものをざっと調べておいた。何食べたい?」
「直哉さん……」
 私のことを心配してくれたのだろうか。ここで待っていてくれるとは思ってもいなくて、驚いてしまったし、正直嬉しくなった。
 これが直哉さんの『寄り添う』姿勢なのだろうと思うと、あたたかい気持ちになる。
「俺はカレーのつもりだったがラーメンにするつもり。詩織が好きそうなのもあったから一緒に見てこようか」
「はい……っ!」
 フードコートに入って、いろんな美味しそうなものを見てあれがいいな、これもいいな、と言いながら一緒に悩んでくれる。そんな人が隣にいるだけでこんなに幸せだとは知らなかった。
 私と直哉さんはそれぞれ食べたいものを頼み、食後のデザートにサービスエリア限定のジェラートを食べて満喫した後、私の地元に向かって出発した。
 眩しい太陽が熱く私たちを照らしている。今日は快晴。きっと夜空も綺麗なんだろうな、なんて話もしながら他愛もない話で盛り上がり、途中食後の眠気が襲ってきてうとうとしながら話していると、『寝ていいよ』と言われてしまったが、寝るつもりなんてなかったのに、気がつくと眠っていたようだ。
 地元までの道中、恋人とドライブってこんなに楽しいものだと初めて知った私であった。
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