エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました
 誰かの声がして、私はうっすらと瞼を開けた。傍に看護師さんが立っていて、自分が会社の医務室で寝ていたことを思い出す。

「終業時刻になりましたよ。具合はどうですか?」

 看護師さんに聞かれて、私は自分の状態を確認した。先ほどの血の気が引く感覚はなく、身体が楽になっている。

「貧血は大分治まりました。このまま帰宅出来そうです」

「それは良かった。課長さんが車で送ってくれるそうですから、準備が出来たら教えてくださいね」

「えっ? それはさすがに悪いですよ。ひとりで帰れますから」

 ただの貧血で、上司にそこまでさせるわけにはいかない。すると、衝立の向こうから、

「気にするなと言っただろう」

 御堂課長の声がした。すぐそこにいたんだ……。
 ここで押し問答になっても、却って迷惑になりそう。私は急いで起き上がると、髪型と服を整えた。


 私が寝ている間に、沙希(さき)がバッグとジャケットを届けてくれていたようだ。明日、ちゃんとお礼を言わなくちゃと思いながら、衝立から出る。

「顔色が良くなってるな」

 御堂課長が私の顔を見て、安心したように微笑んだ。

「はい、おかげさまで。先ほどは、ありがとうございました」

「いや、礼を言われるようなことではない。その件については、車の中で少し話そう。勿論、今すぐでなくても、藤島さんの気持ちが落ち着いてからで良いが」

 胸がドキッと緊張の音を立てる。
 その件というのは、きっと野田さんについてだろう。あの後、彼がどうなったのか、私はまだ知らない。

「構いません。お話したいです」

 体調は回復したし、野田さんのことも気になる。
 私は医務室を後にすると、御堂課長と共に地下駐車場へと向かった。
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