エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました

　出社時刻五分前。いつもより遅い時間にオフィスに入って、フロアの皆に挨拶する。
　自分の席に着くと、隣の席に座る同期の早野(はやの)沙希が不思議そうに私を見た。
　会社で一番仲の良い彼女は、黒のロングヘアをアップアレンジにして、フリルブラウスと細身のパンツを着こなしている。その長身とスタイルの良さが羨ましい。

「乃愛、今日は遅刻ギリギリだね。寝坊したの？」

「寝坊じゃないんだけど、ちょっとね」

　始業までの短時間で説明するのは難しくて、言葉を濁す。
　ランチの時にでも、さっきの出来事について話してみようかな。沙希は面食いだから、イケメンが助けてくれたなんて知ったら盛り上がりそう。
　そんな場面を想像してクスクス笑いながら、私はノートPCを起動させた。

　私が所属するのは、アクセサリーブランドAnge(アンジュ)の企画部企画課。
　Angeはフランス語で「天使」の意味を持つ。「ふたりの絆を結ぶ天使からの贈り物」をコンセプトに、恋人同士に向けたペアアクセサリーを提案するブランドだ。
　企画部は商品企画から販売戦略までを担う、ブランドの中核ともいえる部署となる。

　店舗勤務を一年経て本社へ異動となり、今年で企画の仕事は二年目。業務自体には慣れたけど、先輩方に比べればまだまだ未熟だ。任せられる仕事も、ちょっとしたキャンペーンばかり。
　だけど、小さな企画でも形になれば嬉しいし、これでAngeのファンが増えるかもしれないと思うと、やりがいのある仕事だ。