エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました
 地面を舐めるように見ながら必死で探していると、

「見つけたぞ。この指輪か?」

 背後から男性の声がして、私はガバッと立ち上がった。
 彼の手の中にあったのは、ピンクゴールドの王冠型のリング。私が探していた宝物で間違いない。

「はい、これです!! 見つけてくださって、ありがとうございます!!」

 私は男性の手から指輪を受け取ると、深くお辞儀してお礼を言った。
 大事にしていたとはいえ、長年着けていたから、ネックレスのチェーンが劣化しちゃったんだろうな。買い替えないと。

「本当に、何とお礼を言ったらいいか」

「気にしなくていい」

 男性は片手で私を制すると、ふうっとため息を吐いた。

「しかし、君はもう少し落ち着きを持って行動した方が良いな」

「えっ」

 たしなめるような口調に驚いて、ビクッと固まる私。

「慌てても事態は好転しない。君ひとりだったら、おそらく指輪を見つけられなかっただろう。転んで怪我をしていたかもしれない。何が起こったとしても、まずは一旦立ち止まって、心を落ち着かせることを優先しろ」

「ご、ごめんなさい」

 耳の痛い言葉に、私はしょんぼりと謝ることしか出来なかった。
 そんな私を見た彼は、再び息を吐いた……あれ? この人、笑ってる?
 ちょっと頬を緩めた彼を不思議な気持ちで眺めていると、

「まあ、君がその指輪を大切にしていることは分かった」

 男性は惚れ惚れするような微笑みを見せてそう言うと、私に背を向けてエントランスへと向かっていった。

「あの、ありがとうございました!」

 彼の背中に向かって、もう一度お礼を言う。
 最後は怒られちゃったけど……でも、素敵な人だったな。
 あっ、いけない! 私も早く出社しないと!
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