エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました
「片割れの指輪は、恩人にあげたんだ」

 征士さんは優しい目でメンズリングを見つめる。

「恩人、ですか」

「ああ。ファッションの使命を見失っていた俺を、明るい道へと導いてくれた女の子――」

 顔を上げた征士さんは、真摯な瞳を私に向けた。

「十一年前のあの日、彼女は俺に言ったんだ。『綺麗なお洋服は、日常をキラキラと輝かせてくれる素敵な魔法』だと」

「!」

 私は息を呑んだ。
 それは、お洒落が好きな私が子どもの頃から考えていたことだった。
 夢見がちだと言われちゃうから、実際に口にしたのは一度だけ。
 十一年前、東京で私を助けてくれたお兄さんに話したきりの、大人になった今でも大切にしている言葉だった。

「征士さん、あなたは――」

 最後まで言えずに、声を詰まらせてしまう。目に涙が滲んだ。
 征士さんは私の言いたいことが分かったようで、微笑んで告げた。

「ああ。十一年前、君にその指輪を渡したのは、俺だ」

 その綺麗な笑顔が、当時のお兄さんの優しげな表情と重なる。同時に、十一年前の記憶が鮮やかに蘇った。
 私の初恋とも言える、素敵なお兄さんの正体が征士さん……こんな偶然があるなんて!
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