野いちご源氏物語 〇七 紅葉賀(もみじのが)
こんなふうにしてお出かけになれない夜が重なっていった。
二条(にじょう)(いん)にお入りになった女性が、源氏(げんじ)(きみ)のお出かけを引きとめていらっしゃるらしい」
という話が、ついに左大臣(さだいじん)()にまで伝わってしまったの。
女房(にょうぼう)たちは、
「いったいどういう女性でしょう。失礼なおふるまいですこと。源氏の君はその人をいつもおそばに置いて、ふざけあっておられるそうでございますよ。身分の高い女性のなさることではありませんから、きっと内裏(だいり)かどこかで親しくなられた女房でございましょう。人目(ひとめ)を気にせずかわいがりたいとお思いになって、ご自宅にお隠しになったのではございませんか。ずいぶんと子どもっぽい人だと聞きましたよ」
とささやきあっている。

(みかど)(うわさ)をお聞きになって、源氏の君をお叱りになる。
左大臣(さだいじん)が気の毒ではないか。そなたが十二歳で元服(げんぷく)したときから、婿(むこ)として大切に世話をしているのだ。そのありがたさが分からぬ年でもないだろうに、どうしてこのようなひどい仕打ちをする」
源氏の君は恐縮しきってお答えもできない。
<左大臣の姫とうまくいっていないのであろう>
と、帝は内心ではお気の毒にお思いになる。
源氏の君の恋愛事情をご存じないので、
「これまで浮ついた噂など聞いたことがなかったのに、いつの間にそんなことをしていたのだろうか」
(なげ)いていらっしゃった。
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