野いちご源氏物語 〇七 紅葉賀(もみじのが)
その後も頭中将(とうのちゅうじょう)様は事あるごとに、あの夜の件で源氏(げんじ)(きみ)をおからかいになる。
源氏の君は典侍(ないしのすけ)のせいだと思っておられた。
ご自分の奇妙な好奇心のせいとはお思いにならないのね。
典侍の方は、あれからそっけない源氏の君をお(うら)みしている。
それもまた源氏の君には面倒に思われてしまうの。
頭中将様はお約束どおり、誰にもあの夜のことは話していらっしゃらない。
妹君(いもうとぎみ)、つまり源氏の君の奥様にも、もちろんお話しになっていないわ。
<ここぞというときのために(おど)しのねたはとっておこう>
なんて思っていらっしゃる。

皇子(みこ)たちのなかで、親王(しんのう)という一段高い(くらい)を与えられていらっしゃる方たちでさえも、源氏の君にはご遠慮があるの。
源氏の君は親王どころかただの貴族にされてしまった皇子だけれど、(みかど)があまりに大切になさるから、恐れ多い特別な人だと思っていらっしゃるのね。
ところが頭中将様は、源氏の君にご遠慮などなさらない。
どんなことでも源氏の君に対抗心を燃やして、負けたくないと思っていらっしゃる。

頭中将様と源氏の君の奥様、このおふたりの母君は帝の妹君(いもうとぎみ)であられるの。
だから、いくら源氏の君が帝の皇子でいらっしゃっても、
<私だって母は皇族、父も帝に重んじられている左大臣(さだいじん)ではないか。どうして源氏の君に劣ることがあろう>
と自信満々でいらっしゃる。
たしかに、頭中将様はお人柄も何もかも理想どおりの貴公子だわ。
足りないものなんて何もないの。
それに加えてこの自信がおありだからこそ、源氏の君の親友で、よき好敵手(こうてきしゅ)でいらっしゃるわけよね。
もし将来、おふたりの間にはっきりとした差がついて、この自信が打ち砕かれたら、おふたりの関係はどうなってしまうのかしら。
< 17 / 19 >

この作品をシェア

pagetop