野いちご源氏物語 〇七 紅葉賀(もみじのが)
 さてその後も、頭中将(とうのちゅうじょう)(こと)あるごとに、あの夜の件で源氏(げんじ)(きみ)をおからかいになる。好色(こうしょく)老女(ろうじょ)には気をつけなければならないと、源氏の君は思い知りなさったでしょうね。
 その典侍は、まだ源氏の君に色っぽく(うら)(ごと)を言っていた。源氏の君は面倒(めんどう)がって()げまわっていらっしゃる。
 頭中将は約束どおり、誰にもあの一件をお話しになっていない。妹君(いもうとぎみ)、つまり源氏の君の奥様にも、もちろん秘密だった。
<ここぞというときの(おど)しの材料としてとっておこう>
 というおつもりらしい。

 源氏の君の弟宮(おとうとみや)親王(しんのう)たちでさえ、源氏の君にはご遠慮(えんりょ)がある。親王どころかただの貴族にされてしまった兄だけれど、(みかど)があまりに大切になさるから、恐れ多い特別な人としてお扱いになっていた。
 ところが頭中将は、源氏の君にご遠慮などなさらない。どんなにささいなことでも源氏の君に対抗(たいこう)(しん)を燃やして、負けてなるものかと張り切っていらっしゃる。
 頭中将と源氏の君の奥様は同腹(どうふく)兄妹(きょうだい)で、母君は帝の妹宮(いもうとみや)。だから、いくら源氏の君が帝の皇子でも、ご自分が(おと)っているとはお思いにならない。
<私だって母は皇族、父も帝に重んじられている左大臣(さだいじん)ではないか>
 たしかにお人柄(ひとがら)も何もかも理想どおりの貴公子(きこうし)だった。足りないものなんて何もない。このふたりの競い合いにはおもしろい話がまだたくさんあるけれど、うるさくなるから書かずにおきましょう。
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