野いちご源氏物語 〇七 紅葉賀(もみじのが)
源氏(げんじ)(きみ)桐壺(きりつぼ)にお泊まりになると、翌朝、典侍(ないしのすけ)から置き忘れた着物が届いたの。
「おふたりでずいぶん荒々しく騒がれたあげく、楽しそうに去っていかれましたね。放っておかれた私は涙も尽きるほど泣いております」
という手紙が添えてあった。
頭中将(とうのちゅうじょう)が入ってくる前のことを忘れたような顔をして言うではないか>
と憎たらしくお思いになるけれど、驚かせすぎたという自覚もおありだから、短いお返事だけはおやりになる。
「そなたは頭中将とも関係をもっていたのだな。私はむしろそちらの方に驚いて(うら)んでいる>
届いた着物のなかに、頭中将様の帯が混ざっていたの。
色が違うからお気づきになったわ。
お着物の方を広げてごらんになると、(そで)の端の部分がちぎれてなくなっている。
<軽率に浮気をすると、こういうとんでもない目に遭うらしい。今後は気をつけなければ>
と反省していらっしゃった。

宿直(とのい)用の部屋にお泊まりになった頭中将様からも包みが届いた。
「あなたの(そで)の端の部分でございましょう。()いあわせなされませ」
という手紙を添えて、布が入っていた。
<こんなもの、どうやって取っていったのだ。しかしこちらにはこれがある>
と、頭中将様の帯を、帯と同じ色の紙にお包みになる。
お手紙には、
「『他人に帯に取られたせいで恋人と別れた』という歌がありますから、私は恐ろしくてこの帯に(さわ)れませんでしたよ。ですからあなたと典侍の仲は問題ありません」
とお書きになった。
頭中将様からのお返事には、
「触っていないどころかあなたがほどいた帯でしょう。あぁ、私と典侍は別れることになりそうだ。どうやって責任をとっていただこう」
と深刻ぶったご冗談が書かれていた。

おふたりは日が高くなってから(みかど)のお近くへ上がられた。
頭中将様は、澄まし顔でお仕事をなさっている源氏の君がおかしくて仕方がない。
お仕事が忙しい日だったので、おふたりとも、いかにも真面目そうに熱心に働いていらっしゃる。
そのお姿を見かけるたびに、お互いに顔を見合わせて、こそこそと笑っていらっしゃるの。
他の人がいないところで頭中将様が、
「私に隠れた内緒事はお()りになりましたか」
とお尋ねになる。
源氏の君は、
「私はそうでもないが、典侍に触れることもできずに帰ったもう一人が気の毒だったな。女性を取った取られたは(うわさ)が立ちやすいから困る」
とおっしゃって、あの夜のことはお互いに口止めなさったわ。
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