野いちご源氏物語 〇七 紅葉賀(もみじのが)
翌朝、源氏(げんじ)(きみ)から藤壺(ふじつぼ)女御(にょうご)様にお手紙が届いたの。
「どうご覧になりましたか。私がどんな思いで(そで)を振って舞っていたか、お気づきになりましたか」
女御様はこのお手紙を無視することができなかった。
昨日の源氏の君のお姿が、お心に深く刺さってしまっていたから。

青海波(せいがいは)は中国から伝わった(まい)だそうでございますね。外国の方たちのお気持ちまでは分かりませんが、あなたのお気持ちはなんとなく伝わってまいりました」
とお返事なさる。
源氏の君は、めずらしいお手紙を何度も何度も繰り返しお読みになる。
<お返事はいただけないだろうと思っていたのに。それにしても、外国の舞の起源についてまでお詳しいとは、中宮(ちゅうぐう)におなりになるのにふさわしい方だ>
と感心していらっしゃった。

(みかど)はまだ、どなたを中宮——もっとも(くらい)の高い特別なお(きさき)様、になさるかお決めになっていない。
たくさんのお妃様たちがいらっしゃるなかで、東宮(とうぐう)様をお生みになった弘徽殿(こきでん)の女御様と、格別に愛しておられる藤壺の女御様が有力候補という状態なの。
予行演習のときの源氏の君のお美しさには、帝も不吉なものを感じておられた。
それでいろいろなお寺にお祈りを命じられたのだけれど、弘徽殿の女御様だけは、
「何もそこまでなさらなくても。源氏の君のことになると、帝はおおげさすぎる」
とご不満を漏らされる。
さぁ、どちらが中宮におなりになるのかしら。
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