野いちご源氏物語 〇七 紅葉賀(もみじのが)
藤壺の女御様は出産のためにご実家に戻っていらっしゃった。
そうなると源氏の君はお会いしたくてたまらない。
頻繁にご実家に通って、前回手引きしてくれた王命婦にお願いなさるけれど、王命婦はすげなくお断りしてしまう。
左大臣家は、婿君の源氏の君が姫君を訪ねてきてくださらないことに不快感を抱いておられた。
しかもちょうどそのころ、
「源氏の君が二条の院に女性をお迎えなさったらしい」
という話が姫君のお耳に入ってしまったの。
<私を訪ねてくださらないだけではなく、他の女に夢中になって、私や左大臣家を軽んじるようなおふるまいは許せない>
と恨んでいらっしゃる。
でもそれを夫君にはおっしゃらない。
二条の院に女性を迎えたといっても、若紫の君はまだほんの子ども。
男女の関係にはなっていらっしゃらない。
<そこまではご存じないだろうから、お恨みになるのも当然だ。しかし、恨んでおられるということを人づてに聞くのは嫌なものだな。さりげなく、かわいらしく恨み言を言ってくだされば、私も本当のことを話してなぐさめてさしあげるのに。そういう取り澄ましたご態度だから、こちらも浮気心が起こるのだ。
姫君は私が元服したときからの正妻ではないか。ご性格もご容姿も、たいへん立派でいらっしゃることは私も認めて尊重している。その敬意をまだお分かりいただけないのは情けないが、いずれお気づきになる日も来るだろう>
奥様に女らしい優しさが足りないことをご不満に思われるているの。
でも、軽々しく離婚などとは言いださない、慎重なご性格には甘えていらっしゃるのね。
一方、若紫の君は、一緒にいればいるほどかわいらしくなっていかれる。
おふたりで無邪気に遊んでいらっしゃるの。
<しばらくの間は、二条の院でも一部の者にしか知られないようにしよう>
とお思いになって、普段は使われていない離れでお育てになる。
姫君の身近にお仕えする女房たちと、源氏の君の特別な家来である惟光以外には、この姫君のことは知られていない。
姫君の父宮であられる兵部卿の宮様さえご存じないの。
姫君がお暮らしになる離れは、これ以上ないほど美しく整えられている。
源氏の君が頻繁にいらっしゃって、小さな姫君にいろいろなことをお教えになった。
習字のお手本はご自分でお書きになるほどよ。
まるでご自分の娘をどこかから引き取られたみたい。
幼い姫君だけれど、祖母の尼君から相続なさったお屋敷などの資産をもっていらっしゃる。
源氏の君は姫君のために事務仕事をする男性を雇って、経済面でも安心してお暮らしになれるようにしてさしあげたわ。
姫君はまだ、ときどき尼君を恋しく思い出される。
昼間、源氏の君がおそばにいらっしゃるときはご気分もまぎれるのだけれど、夜は寂しがってしまわれるの。
源氏の君はあちこちに訪ねなければならないところがおありだけれど、出かけようとするところに姫君が寂しそうなお顔をなさると、かわいそうでもありかわいらしくもあってたまらない。
二、三日内裏にお泊まりになって、そのまま左大臣邸に行かれたときなどは、姫君はすっかり元気がなくなってしまわれるの。
源氏の君は、母親のいない娘を育てる父親になったような気がなさって、お出かけをためらわれてしまう。
そうなると源氏の君はお会いしたくてたまらない。
頻繁にご実家に通って、前回手引きしてくれた王命婦にお願いなさるけれど、王命婦はすげなくお断りしてしまう。
左大臣家は、婿君の源氏の君が姫君を訪ねてきてくださらないことに不快感を抱いておられた。
しかもちょうどそのころ、
「源氏の君が二条の院に女性をお迎えなさったらしい」
という話が姫君のお耳に入ってしまったの。
<私を訪ねてくださらないだけではなく、他の女に夢中になって、私や左大臣家を軽んじるようなおふるまいは許せない>
と恨んでいらっしゃる。
でもそれを夫君にはおっしゃらない。
二条の院に女性を迎えたといっても、若紫の君はまだほんの子ども。
男女の関係にはなっていらっしゃらない。
<そこまではご存じないだろうから、お恨みになるのも当然だ。しかし、恨んでおられるということを人づてに聞くのは嫌なものだな。さりげなく、かわいらしく恨み言を言ってくだされば、私も本当のことを話してなぐさめてさしあげるのに。そういう取り澄ましたご態度だから、こちらも浮気心が起こるのだ。
姫君は私が元服したときからの正妻ではないか。ご性格もご容姿も、たいへん立派でいらっしゃることは私も認めて尊重している。その敬意をまだお分かりいただけないのは情けないが、いずれお気づきになる日も来るだろう>
奥様に女らしい優しさが足りないことをご不満に思われるているの。
でも、軽々しく離婚などとは言いださない、慎重なご性格には甘えていらっしゃるのね。
一方、若紫の君は、一緒にいればいるほどかわいらしくなっていかれる。
おふたりで無邪気に遊んでいらっしゃるの。
<しばらくの間は、二条の院でも一部の者にしか知られないようにしよう>
とお思いになって、普段は使われていない離れでお育てになる。
姫君の身近にお仕えする女房たちと、源氏の君の特別な家来である惟光以外には、この姫君のことは知られていない。
姫君の父宮であられる兵部卿の宮様さえご存じないの。
姫君がお暮らしになる離れは、これ以上ないほど美しく整えられている。
源氏の君が頻繁にいらっしゃって、小さな姫君にいろいろなことをお教えになった。
習字のお手本はご自分でお書きになるほどよ。
まるでご自分の娘をどこかから引き取られたみたい。
幼い姫君だけれど、祖母の尼君から相続なさったお屋敷などの資産をもっていらっしゃる。
源氏の君は姫君のために事務仕事をする男性を雇って、経済面でも安心してお暮らしになれるようにしてさしあげたわ。
姫君はまだ、ときどき尼君を恋しく思い出される。
昼間、源氏の君がおそばにいらっしゃるときはご気分もまぎれるのだけれど、夜は寂しがってしまわれるの。
源氏の君はあちこちに訪ねなければならないところがおありだけれど、出かけようとするところに姫君が寂しそうなお顔をなさると、かわいそうでもありかわいらしくもあってたまらない。
二、三日内裏にお泊まりになって、そのまま左大臣邸に行かれたときなどは、姫君はすっかり元気がなくなってしまわれるの。
源氏の君は、母親のいない娘を育てる父親になったような気がなさって、お出かけをためらわれてしまう。