野いちご源氏物語 〇七 紅葉賀(もみじのが)
若紫の君の乳母も、すっかり二条の院での暮らしに慣れてきていた。
<姫様は思いがけない幸運を手に入れられた。きっと亡き尼君が、姫様のお幸せをいつも仏様にお祈りなさっていたおかげね。でも、源氏の君のご正妻は左大臣様の姫君で、とてもご身分の高い方でいらっしゃる。その他にもあちこちにたくさん恋人がいらっしゃるのだから、本当に問題が起こるのは、姫様が大人になられてからだわ>
と、姫君のご将来が心配にもなるの。
でも、源氏の君が姫君を大切になさるご様子を拝見して、
<これだけ深いご愛情なのだもの。きっと大丈夫よ>
と思い直している。
年が明けた。
姫君は尼君がお亡くなりになってから、ずっと喪服を着ていらっしゃった。
喪の期間はちょうど年末で終わったから、元日の今日からは明るい色のお着物をお召しになってもよいの。
だけど、姫君にとって尼君は親代わりでいらっしゃったから、まだ少し遠慮して、あまり派手すぎない色の着物を着ていらっしゃる。
それがかえって現代風で、おかわいらしさを引き立てていたわ。
源氏の君は元日の儀式のために内裏に上がられる。
立派に正装なさった美しいお姿で、姫君のところへお顔をお見せになった。
「ひとつ年をおとりになって、大人らしくなられましたか」
とほほえんでお尋ねになる。
当時は「数え年」といって、誕生日は関係なく、すべての人が元日にひとつ年をとる仕組みだったの。
それで源氏の君はそんなふうにお尋ねになったのね。
姫君はお人形遊びの真っ最中でいらっしゃった。
お人形用のお道具やお屋敷が、所狭しと広げられているの。
「昨夜、あの子がこれを壊してしまったの。それで直しているところよ」
と、お道具をお見せになる。
「おやまぁ、うっかり者の女童ですね。だれかに言ってすぐ直させよう。今日はおめでたい元日ですから、泣いてはいけませんよ」
となぐさめてから内裏へご出発なさる。
女房たちにつづいて姫君もお見送りなさった。
そのあとはまたお人形遊びに戻られたの。
源氏の君役のお人形に正装をさせて、内裏ごっこをしていらっしゃったわ。
乳母は困り顔で申し上げる。
「今年はもう少し大人っぽくなさいませ。十歳を過ぎた人は、お人形遊びなんてなさらないものですよ。姫様にはすでに夫君がいらっしゃるのですから、奥様らしくなさらないと。あいかわらずお髪をとくことさえお嫌がりになりますが、そんなふうではいけませんよ」
姫君が子どもっぽい遊びに夢中でいらっしゃるから、ついお説教してしまったのね。
姫君は、
<それでは源氏の君が私の夫君なのかしら。女房たちの夫君はおじさんばかりなのに、私にはなんて美しい夫君がいらっしゃるのかしら>
と、やっと今、ご自分の幸運にお気づきになったみたい。
さすが、ひとつ年をおとりになっただけのことはあるわね。
若紫の君のことは、二条の院にお仕えしている人たちのなかでもごく一部の人しか知らない。
それでも、こういういかにも幼い感じが漏れるときがあって、
<いったいどんな女性をお迎えになったのだ>
と怪しんでいる人もいた。
まさか、本当に幼い子どもだとは思わないみたいだったけれどね。
<姫様は思いがけない幸運を手に入れられた。きっと亡き尼君が、姫様のお幸せをいつも仏様にお祈りなさっていたおかげね。でも、源氏の君のご正妻は左大臣様の姫君で、とてもご身分の高い方でいらっしゃる。その他にもあちこちにたくさん恋人がいらっしゃるのだから、本当に問題が起こるのは、姫様が大人になられてからだわ>
と、姫君のご将来が心配にもなるの。
でも、源氏の君が姫君を大切になさるご様子を拝見して、
<これだけ深いご愛情なのだもの。きっと大丈夫よ>
と思い直している。
年が明けた。
姫君は尼君がお亡くなりになってから、ずっと喪服を着ていらっしゃった。
喪の期間はちょうど年末で終わったから、元日の今日からは明るい色のお着物をお召しになってもよいの。
だけど、姫君にとって尼君は親代わりでいらっしゃったから、まだ少し遠慮して、あまり派手すぎない色の着物を着ていらっしゃる。
それがかえって現代風で、おかわいらしさを引き立てていたわ。
源氏の君は元日の儀式のために内裏に上がられる。
立派に正装なさった美しいお姿で、姫君のところへお顔をお見せになった。
「ひとつ年をおとりになって、大人らしくなられましたか」
とほほえんでお尋ねになる。
当時は「数え年」といって、誕生日は関係なく、すべての人が元日にひとつ年をとる仕組みだったの。
それで源氏の君はそんなふうにお尋ねになったのね。
姫君はお人形遊びの真っ最中でいらっしゃった。
お人形用のお道具やお屋敷が、所狭しと広げられているの。
「昨夜、あの子がこれを壊してしまったの。それで直しているところよ」
と、お道具をお見せになる。
「おやまぁ、うっかり者の女童ですね。だれかに言ってすぐ直させよう。今日はおめでたい元日ですから、泣いてはいけませんよ」
となぐさめてから内裏へご出発なさる。
女房たちにつづいて姫君もお見送りなさった。
そのあとはまたお人形遊びに戻られたの。
源氏の君役のお人形に正装をさせて、内裏ごっこをしていらっしゃったわ。
乳母は困り顔で申し上げる。
「今年はもう少し大人っぽくなさいませ。十歳を過ぎた人は、お人形遊びなんてなさらないものですよ。姫様にはすでに夫君がいらっしゃるのですから、奥様らしくなさらないと。あいかわらずお髪をとくことさえお嫌がりになりますが、そんなふうではいけませんよ」
姫君が子どもっぽい遊びに夢中でいらっしゃるから、ついお説教してしまったのね。
姫君は、
<それでは源氏の君が私の夫君なのかしら。女房たちの夫君はおじさんばかりなのに、私にはなんて美しい夫君がいらっしゃるのかしら>
と、やっと今、ご自分の幸運にお気づきになったみたい。
さすが、ひとつ年をおとりになっただけのことはあるわね。
若紫の君のことは、二条の院にお仕えしている人たちのなかでもごく一部の人しか知らない。
それでも、こういういかにも幼い感じが漏れるときがあって、
<いったいどんな女性をお迎えになったのだ>
と怪しんでいる人もいた。
まさか、本当に幼い子どもだとは思わないみたいだったけれどね。